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第11回「熱烈的中国」＊ピアノ編＊ コンサート調律師（MPA) 山脇 健次
ものすごい勢いで経済発展を続ける中国。私が中国出張で、見て聞いて感じたことをレポートする第２弾。さて今回は中国ピアノ編です。
今や世界１のピアノ生産国になった中国。製造する会社は１００社を超えているとも言われ、年間３０万台以上のピアノを作っています。この数は日本の５〜６倍に相当し、その勢いは未だ止まることを知りません。ピアノの会社も国営企業と民間企業が有り、それぞれに特徴を出し、高級品である外国企業と競い合っています。
四川音楽院
階案内 例えば、四川音楽院（国立・音大）の正門前から続く通りには６０以上のピアノ屋さんが、店舗を構えているのです。昨年秋にこの地を訪れた時には、その光景に驚きました。
そうゆう内外のピアノが一堂に会するのが楽器フェア。中国でも北京や上海の大都市で定期的に開かれ、特に毎年10月中旬に開催される上海国際楽器展覧会は、アメリカのナムショー、ドイツのフランクフルトメッセと並び、世界3大楽器フェアに数えられている大規模なものです。私もＥＸやＳＫのメンテナンスの為、毎年この仕事を担当していますが、他社のピアノを見て、弾いて、新しい刺激をもらっています。家具を作るのが上手な国のピアノは、隠れている所まで美しく仕上げ、国民性が真面目な国のピアノは、見た目から重く頑丈そうに作っています。
上海楽器展覧会
さてそんな中、周り中で各国のピアノの音が響いています。試弾に来るのは、ピアノ屋さんはもちろんの事、先生達、音大生、音楽教室生と様々ですが、中国の場合、他とはちょっとした違いがあります。それは、初めてのピアノで最初に弾く曲は日本の場合だと圧倒的にショパンが多いと思いますが、この地では誰もがピアノコンチェルトを弾き始めます。10歳そこそこの子が、上手ヘタは別にしていきなりチャイコフスキーの1番を弾くのです。他には、ベートーヴェン、リスト等々・・・
まるで音の強弱の限界を試されているかのようです。そして気に入ったピアノがあれば、いつまでも弾き続け、いつの間にか人垣が出来てしまいます。上手な演奏には拍手が来ますし、ちょっとしたミニコンサートです。私にしてみると、朝から晩まで立ち通しの疲れた中での、ニコリとしちゃう一時です。
又、出張で知り合った、中国各地の友人達に再会出来るのも、この楽器フェアでの楽しみです。特に北京中央音楽院（日本で言う東京芸大に相当）の調律師、張（ッアン）とは1年振りの再会でした。実は、気になっている事が有ったのです。4年前の北京中央音楽院付属中学での出来事です。仕事の最中にとても気になる優しい音が聞こえてきて、その音に惹かれるようにその部屋を訪ねたのです。練習室の小窓から覗くと少女がモーツァルトを弾いています。
私はその音がとても心地よく、自然に部屋をノックしました。そして部屋に入り彼女が車椅子に座っている事を知りました。両足が無かったのです。だからペダルを使用しなくていいモーツァルトを弾いていたのです。彼女は私の為に違うモーツァルトを弾いてくれ、そして私は自然に涙が出てきて、まるでその音は天使の声として、私の心に一生忘れることの出来ない感動を与えてくれました。私は張に彼女が今どうしているのか聞きました。今でも元気でピアノを続けているのか？ 張は「彼女は18歳になり、音楽院に進学できたよ。お前のことは覚えているよ」その言葉に、私は調律師になった事を心から良かったと思いました。
私が調律をしていて、彼女がピアノを続けていたら・・・いつか再会出来るかもしれません・・・ 心の中で、神様にそっと祈りました。
山脇 健次 （やまわき●けんじ）
1977年 カワイピアノ入社
1978年 サービスセンター札幌勤務
1993年 カワイヨーロッパ研修
1995年 ピアノ研究所勤務
1998年 北海道支社勤務国際コンクール暦（主なもの）
1994年 ロンドン国際コンクール
1994年 ダブリン国際コンクール
1994年 ジョージ エネスコ国際コンクール
1995年 サンタンデール国際コンクール
1997年 ヴィエンナ・ダ・モッタ国際コンクール趣味：許せる範囲で世界遺産巡り
特技：動物と仲良くできること
掲載元：「あんさんぶる」2007年2月号より転載。（あんさんぶる編集室に転載許可済み）
あんさんぶる編集室（カワイ音楽教育研究会 機関誌）に無断で転載することを禁止します。
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