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Dコンサート3 開催レポート
2012年11月16日(金) 18:30開場 19:00開演
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 

 

 本日は東京藝術大学大学院のリサーチセンターが主催するDコンサート(博士号取得者による音楽イベント)が開催されました。テーマは「交錯するアイデンティティと音楽する意志」。今回のコンサートではピアノを専門とする菅野雅紀さん、オペラ歌唱を専門とする飯島香織さん、三味線を専門とする角田剛士さんが手を取り合ったのですが、こうした諸分野のコラボレーションはもはや「西洋と東洋の出会い」といった簡単な言葉では集約できなくなってしまいました。そのように様々な民族とその音楽が行き交う現代において、自らのあるべき表現を求める―このテーマには、若手音楽家達のそんな想いが込められていたように思います。

 最初に登場したのはピアニストの菅野雅紀さん。武満徹の楽譜を題材に、「演奏者は楽譜から何を読み取るか、また読み取ったことをいかに演奏に反映するか」という問題について考えます。武満の楽譜は年代によって演奏家に対する指示の出し方が違い、その指示はより抽象的で暗示的な方向に変わってゆきます。このような演奏家にその解釈を委ねるような楽譜を弾きこなすために、菅野さんが大切だと強調していたのが想像力でした。この想像力を軸に演奏される菅野さんのピアノの音色は、1つずつの和音に表情があり、またそれらの表情が繊細なペダリングによってさらに活きていました。とりわけトークの後に演奏された2曲が素晴らしく、〈夕日のなかの子供達〉(間宮芳生)では万華鏡のような遊び心溢れる音の色彩感を、《子守歌》(三善晃)では日本の子守歌に込められてきた守子の嘆きや痛みを感じました。

 次は歌手の飯島香織さん。三木稔のオペラ《春琴抄》を取り上げ、オペラ的な歌唱でいかに日本語を美しく歌うかという課題に取り組まれました。この《春琴抄》は地歌をそのまま取り込んだ「借景」と呼ばれる部分と、三木稔オリジナルのメロディーが入った「本景」と呼ばれる部分から成っています。飯島さんは「借景」において、いかに地歌の歌唱技法を反映させるかを考察した上で、さらに「本景」においても地歌の歌唱技法を応用させる方法を検討しました。演奏ではそのような研究内容に沿って、「借景」にあたる第1幕のコーダと「本景」にあたる春琴のアリアが歌われました。飯島さんの歌唱はまさに研究の成果が前面に出た、オペラとしての迫力と日本語の歌の繊細さを兼ねたものでした。菅野さんのピアノ、安嶋さんの筝&三味線、友常さんの尺八を加えての演奏でしたが、それらの楽器もまた飯島さんの声に美しく寄り添い、許されぬ恋を秘める女性春琴の世界が見事に出来上がっていました。

 休憩明けに登場したのは三味線の角田剛士(新内剛士)さん。三味線合奏で用いられる上調子(主旋律をなぞるように展開する高い調弦の三味線)の歴史を追った研究をされてきました。上調子は基本的に本手(主旋律楽器)に沿って奏でられるにもかかわらず、時に本手から外れた音を出したり爪弾くような独特な奏法を用いたりします。こうした特徴について歴史を遡ると、筝の影響であったことがわかってきました。トークは実際に上調子と筝を弾き比べするなど、お客様にもとても理解しやすいものでした。その後、実際に上調子の新内仲之介さんに加わっていただき、《梅雨衣酔月情話》が演奏されました。本手の太く鋭い音と上調子の可憐な響き、そして役柄によって声を使い分けた唄が絡み合い、素晴らしいアンサンブルでした。

 最後は菅野さん、飯島さん、角田さんお三方によるコラボレーション演奏が催されました。1曲目は丸山和範《秋刀魚の唄》で、お三方に再び尺八の友常さんが加わっての演奏です。飯島さんが「演奏していて楽しい」と紹介された通り、思わず聴き手も身体を動かしたくなってしまうようなリズムに、独特の響きが散りばめられた曲。その中で、菅野さんと角田さんの弾けるような音と飯島さんの妖艶な声がコントラストを成し、さらにそこへ友常さんが様々な息遣いや音色で応えるという、大変面白い競演でした。2曲目はお三方のために書かれたという新作で、佐藤岳晶《萃点 I 》。鶴見和子氏の短歌を用いたこの作品では、ピアノや三味線を土台に様々な声の技法が用いられ、まさに「声の藝術」と呼ぶべきアンサンブルが展開されてゆきました。3曲目には誰もが知る名曲《赤とんぼ》が、先ほどの佐藤岳晶さんの編曲で客席に届けられ、お客様は懐かしいメロディーとオリジナリティに溢れる響きに耳を傾けていらっしゃいました。

 こうしてDコンサートは、若手音楽家の皆様の熱演とそれに応えるお客様の拍手の中、大盛況に終わりました。本日メインで出演されました菅野さん、飯島さん、角田さんの今後のご活躍を楽しみにしたいと思います。

(A. T. )

 

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