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西原 稔 公開講座 開催レポート(1- 全3回シリーズ)
「ブラームスの世界」
2011年9月2日(金) 10:30 講座(10:30〜12:30)
主催:カワイ音楽振興会

会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 本日から3回にわたり、桐朋学園音楽大学音楽学部教授、音楽学部学部長の西原稔先生による公開講座『ブラームスの世界』が開催されます。第1回目は「初期の創作」について、《ピアノ・ソナタ第2番》(作品2)と《バラード集》(作品10)を中心に解説して下さいました。今回は、ピアノ講師はじめとする多くの方々が集まり、熱心にメモを取りながら先生のお話に耳を傾けておられました。

 ブラームスは《第2番》、《第1番》、《第3番》の順で全3曲のピアノ・ソナタを作曲していますが、本題の《第2番》に入る前に、まず、《第1番》(作品1)と《第3番》(作品5)について解説されました。この2曲のソナタは、ブラームスがこれまでに学習してきたことの成果として作曲されたのだそうです。

 《第1番》では、例えば第1楽章と第4楽章が密接に関連しているシンメトリックな構成や、第1楽章での第1主題は、ベートーヴェンの《ハンマークラヴィーア》(作品106)の主題に類似していたり、調性関係は《熱情》ソナタ(作品57)に類似していたりと、主にベートーヴェンの書法が土台となっています。また、ブラームスは生涯にわたりドイツ民謡に大変関心を持ち、彼の創作全体に深い影響を及ぼしたとのことで、この作品でも第2楽章において、クレッチュマー・ツッカルマリオ編《ドイツ民謡集第1巻》より第36番「ひそやかに月は昇る」の旋律が用いられています。

 続いて、シューマンから評価を得て作曲された《第3番》では、第3楽章「スケルツォ」を軸として第2楽章と第4楽章、第1楽章と第5楽章が対となり、《第1番》と同様にシンメトリックな構成になっています。このソナタも、ベートーヴェンの《熱情》ソナタが土台となっており、主題労作や動機労作の技法の習得などといったベートーヴェン研究や、第1主題が反進行していることなどの綿密な対位法研究ばかりでなく、シューマンの《ピアノ・ソナタ第3番》(作品14)や、第3楽章「スケルツォ」では、メンデルスゾーンの《ピアノ三重奏曲第2番》(作品66)の第4楽章の主題が用いられるなど、シューマンとメンデルスゾーンの作品研究の成果も反映されています。一方、第2楽章では、ブラームス生来の和声感覚であり、和声を曖昧に多様化させる効果を持つ、下行する連続3度の書法が用いられています。この書法は、後に後期のピアノ小品でも用いられることとなるそうです。

 以上のように、《第1番》と《第3番》のソナタは、若きブラームスが古典的教養の証として、また、世の中に羽ばたいてゆくための土台のような作品として作られたとのことです。

 それでは、これら2曲のソナタと趣が異なる《ピアノ・ソナタ第2番》はどのような特徴があるのでしょうか。このソナタを作曲した頃のブラームスは、コンサートピアニストを目指しており、当時第一線で活躍していたリストやタールベルクに強く憧れていました。このソナタは、そうした憧れからか、とりわけ、厳格なソナタ形式に従われず、華やかなブラヴーラ様式の協奏曲を念頭に書かれた第1楽章と、それと対をなすカデンツァ風の冒頭を持つ第4楽章は、ヴィルトゥオーゾ的作風が全面に表れています。なお、第1楽章の第2主題がリストの《巡礼の年第1年「スイス」》より第5曲〈夕立〉と類似していることもあり、リストを意識していたとのことです。

 また、このソナタは、他の2曲のソナタにはない、後期の作品に見られるようなブラームスの根源的な和声語法が用いられているとのこと。中でも第2楽章は、全体でもっとも独創的な鍵を握っており、《第3番》の第2楽章と同様に下行する連続3度や、はるか遠い世界を思わせるような高音域に対する偏愛、復調の使用による不思議な響きなどが見られます。さらに、第4楽章では、ワーグナーの「トリスタン和声」に類似するような響きまで登場しているとのことで、それらの斬新さは大変興味深く思いました。

 最後は、同時期に作曲された《バラード集》(作品10)についてです。ここでは、主に《ピアノ・ソナタ第2番》、そして、後期の作品《3つのインテルメッツォ》(作品117)との関連性について解説していただきました。第1曲は、ブラームスが当時関心を示していたヘルダーの詩『諸国民の声』より「エドワード」によるもので、母親と息子の陰鬱な対話が曲中に表現されています。後に同じくヘルダーの『諸国民の声』を用いて作曲した歌曲《3つの二重奏曲》(作品20)の中の〈恋の道 その1〉の動機は、冒頭の母親の動機と、そして〈恋の道 その2〉の同機は息子の動機と類似していることから、この《バラード第1曲》がもとになっていることは明らかとのことです。また、冒頭の2度の動機(b-a)は、《3つのインテルメッツォ》の第2曲にも用いられています。第2曲の主題は、《3つのインテルメッツォ》の第1曲の下行主題と類似しており、第3曲の主題は《ピアノ・ソナタ第2番》の第3楽章や、同時期に作曲された《スケルツォ》(作品4)と、3音の動機や、休符の用い方などが類似しています。そして、第4曲はシューマンの《フモレスケ》(作品20)の第1曲と関連しており、シューマンの語法を模範としていますが、ブラームス独自の複雑な和声語法が用いられています。また、この揺らぐような絶妙な和声の変化は、20世紀初めのフォーレの《ノクチュルヌ第6番》(作品63)の表現に類似しているとのことです。以上のことからこの《バラード集》は後期の作品への入口になっているとお話し下さいました。

 今回メインに取り上げられた《ピアノ・ソナタ第2番》(作品2)と《バラード集》(作品10)は、一見難解で近寄りがたいイメージがありましたが、本日の西原先生による内容が濃くわかりやすいレクチャーで、これらはブラームスの生来の独特な和声感などといった語法が直接的に表現されたオリジナリティあふれる作品だということがわかり大変有意義なものとなりました。今回の作品を通して見てきた、ブラームスが初期で培った和声感覚は、《3つのインテルメッツォ》(作品117)のように、後の作品に生きてくるのだそうです。

 西原先生の『ブラームスの世界』公開講座、次回は9月16日(金)ピアノ・ソナタにピリオドを打ち、その後の課題となった変奏曲の書法についてです。こちらも非常に楽しみです。

(K.S)

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