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西原 稔 公開講座 開催レポート(2- 全3回シリーズ)
R.シューマン − 知られざるその世界 −
2011年2月25日(金) 10:30〜12:30
主催:カワイ音楽振興会

会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

   

 1月から開催されている、西原稔先生のシューマン講座(全3回)。第2回のテーマは、「ピアノ・ソナタの構想」です。第1回では、《アベッグ変奏曲》《パピヨン》《謝肉祭》の楽曲構造と成立過程について、高度でかつ分かりやすい解説をしてくださった西原先生。前回の好評ぶりを受け、今回はさらに多くの方々が朝の「パウゼ」に集まりました。皆さま、事前に配布されたレジュメと譜例を見て予習しながら、レクチャーの開始を待っておられたようです。

 今回西原先生が取り上げた作品は、《ピアノ・ソナタ 第1〜3番》、それにソナタ的な多楽章作品である《幻想曲》(作品17)の4曲です。シューマンも他のロマン派の作曲家と同様、ソナタの作曲において、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンらが築き上げた伝統を引き継ぎながら、独自の手法を取り入れ、他の作曲家の作品にはない新しいソナタの世界を創り出しました。西原先生のお話によると、シューマンのソナタの共通点は、「緩徐楽章あるいは変奏曲の主題が作品全体の柱になっている」という点です。たしかに、《ソナタ第1番》(作品11)では、自作の歌曲「アンナに寄す」が使用されています。第2楽章冒頭で使用される他、第1楽章序奏にも出現するなど、楽曲のあらゆる所に使用され、全体を統一する重要な役割を果たしています。また《ソナタ第2番》(作品22)では、第2楽章に「秋に」という歌曲の旋律が借用されていますし、《幻想曲》(作品17)ではベートーヴェンの「遥かなる恋人」が引用されています。このように、緩徐楽章に歌曲の旋律を用い、それが全体の楽想の中核をなしているという点がシューマンのソナタの大きな特徴なのです。

 一方、一口に「ソナタ」といっても、その構想や楽曲形式はそれぞれ大きく異なります。例えば《ソナタ第1番》(作品11)は、様々な主題と形式の新しい関係を模索することを通して、古典的なソナタ形式の枠組みから自由になることを試みました。その結果、この作品は長大かつ複雑な作品となっています。その後の、《ソナタ第2番》(作品22)では逆に、古典的な枠組みを尊重し、整然とした構成が特徴となっています。また《ソナタ第3番》(作品14)は、もともと5楽章構成のソナタとして作曲され、作曲された時にはスケルツォを2曲含んでいました。その後、「3楽章構成の《協奏曲》」、「4楽章構成のソナタ」というように、最終的な「ソナタ」として完成するまでに複雑な経過をたどっています。このように、シューマン独特のソナタ構成法として、作曲のきっかけに「歌曲」が挙げられるものの、それをどういう全体にまとめ上げていくかという過程、そして最終的な楽曲形式は、1曲1曲異なるのです。

 このようなお話を聞いていると、最終的に「ソナタ」として完成された作品も、シューマンが最初から完成型を思い描いていたのではなく、クララや周りの人々の助言、自身の試行錯誤などがあり、その末にたどり着いたものなのだということがわかり、興味深く思いました。

 第1回に引き続き、今回も非常に内容の濃い、高度なレクチャーでした。個人的には、「緩徐楽章の楽想を中心に、ソナタの全楽章をまとめ上げる」というシューマン独特の手法を、譜例と音源を通じて確認できたのが興味深かったです。「歌曲」はシューマンの全作品の中でも重要な位置を占めていますが、ピアノ作品においてもまた「歌」は中心的な役割を果たし、それぞれに意味を持っているのです。また、西原先生がシューマンのことを「ブラームスとは正反対で、主題や楽想を捨てずに取っておき、どこかで使用する作曲家」と表現されていた意味が、レクチャー全体を通してとてもよく伝わってきました。ピアノの先生をはじめとする受講者の皆さまも、それぞれに新たなシューマンの魅力を発見されたことでしょう。

 さて、西原先生のシューマン講座も次で最終回。2011年3月18日(金)に、《幻想小曲集》《子供の情景》《クライスレリアーナ》という、ピアニストやピアノ学習者にとってお馴染みの名曲を取り上げます。シューマンの音楽に興味をもつ、多くの方々にとって有益なレクチャーになりそうです。

(M.S.)

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