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V.リャードフ氏 公開レッスン 開催レポート
2013年11月20日(水)10:30〜12:40
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」
本日は、世界的にご活躍されているロシア人ピアニスト、ヴィクトル・リャードフ先生の公開レッスンが行われました。リャードフ先生は、モスクワ音楽院および同音楽院大学院にて故タチアナ・ニコライエワ教授のもとで学ばれ、同教授が亡くなるまでアシスタントを勤めていらっしゃいました。また、第2回浜松国際ピアノコンクール第1位他、数々の国際コンクールで入賞を果たされております。今回の受講生は、高校3年生の中村優似さんと、大学3年生の谷田川実晴さん。通訳を務めてくださったのは、ピアニストの深川美奈先生です。前半は中村さんです。受講曲目のハイドン≪ピアノソナタ ニ長調≫Hob.XVI-42とワーグナー=リスト≪イゾルデの愛の死≫を説得力のある演奏で聴かせてくださいました。先生は「学生の演奏ではなくて、演奏家による演奏のよう。」と絶賛され、更なる表現の可能性を伝授してくださいました。
演奏家は、ホールの規模に合わせて音量のコントロールをすることや、時代ごとのスタイルを理解し、それを現代の楽器で再現することが求められます。そのためには、譜面上の限られた情報から作曲家の意図を読み取ることが大切です。
ハイドンでは、古典派の優美な様式と当時の楽器の性能を考慮すること。≪イゾルデの愛の死≫では、原曲のオーケストラの重厚かつメロディラインのはっきりとした響きを再現しつつ、「死」を表しているため、エネルギーを徐々に失わせるような表現がポイントとなります。これらの要素を表現するために以下の2つの事柄についてご指導くださいました。
まず、強弱記号やスラーなどの楽譜の細かい指示がどのような意味を表しているのかを考え、全体的に音がアグレッシブになりすぎないように音量やアーティキュレーションのバランスを考えること。次はペダルについてです。2曲共にペダルを踏むときは全体的に深くなりすぎないように注意しながら細かくコントロールすることが求められます。ここで、先生は以下の練習方法を教示してくださいました。
(1)和音をスタッカートで弾きながら、数ミリずつ6〜8段階に分けて徐々に深く踏む。
(2)いちばん深くまで踏めたら、少しずつ足を上げながら徐々に浅くしていく。
上記の方法を、各段階の響き(ペダルのかかり具合)を確認しながら行うというものです。ペダルのコントロールを細かくすることで曲想がより一層立体的になり大変驚きました。
後半は、谷田川さんです。ショパンの≪幻想ポロネーズ≫で受講されました。技術的にも音楽的にも高度な作品ですが、全体の構成や音楽の方向性がしっかりと考えられた端正な演奏を聴かせてくださいました。先生はさらに深みのある表現へ導くためのアドバイスをしてくださいました。
このポロネーズはショパンの晩年に作曲されました。当時のショパンは病気が悪化して、死に着々と近づいていることをわかっていたため、この曲では「過去の思い出」を回想するように曲想の断片が次から次へと連ねられているようなスタイルで書かれています。したがって、現実のようにはっきりとした形ではなく、霧のように靄のかかった表現が求められます。そのためには、ペダルの使い方が重要になります。先生は、前半の中村さんの時と同じく、タッチのバランスやペダルについてのアドバイスに加え、リズム、テンポ、和声、音型の修辞的な意味、それぞれの曲想の断片の発展の仕方などを丁寧に解説してくださいました。
このスペースでご紹介した内容はほんの一部ですが、作曲家のスタイルを尊重し、細部にわたり非常に丁寧なアドバイスをしてくださったリャードフ先生のレッスンを通して、受講生のお二方の演奏は、まるで魔法がかかったように、より一層素晴らしいものへと変化して行きました。時代ごとの楽譜の読み方や作品の解釈の方法などを学べた大変有意義なレッスンでした。
(K.S)
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