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 ホーム(ニュース)トピックス > 2010年 > 久元祐子 ピアノ演奏法講座 第5回 開催レポート

2010年3月3日(水) 10:30開演(10:30〜12:30)
久元祐子 ピアノ演奏法講座 開催レポート
『一歩上を目指すピアノ演奏法』第5回(全5回シリーズ)
「シューベルト  〜歌の香りを味わう〜」
シューベルト :即興曲 変ロ長調 作品142の3 ほか
主催:カワイ音楽振興会
会場:
カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 昨年の11月から開催してきた久元祐子先生のピアノ演奏法講座『一歩上を目指すピアノ演奏法』は、今日で最終回を迎えます。今回のテーマは久元先生も大好きだというシューベルト。ピアノ作品の話にとどまらず、シューベルトの作品を理解する上で欠かせない歌曲の話も含め、内容の濃いレクチャーとなりました。

 久元先生が最初に取り上げた作品は《ワルツ》D.365からの2曲。この作品で久元先生が強調されていたことは、フレーズの各音を均等に弾くのではなく、重みをかける部分、軽く力を抜く部分を見分けることです。フレーズの性格を読み取り、適切な表現をすることで、シンプルな旋律が表情豊かに演奏できるようになります。実際久元先生が軽やかに演奏されるフレーズは、優雅なウィーンでの雰囲気を感じさせるもので、ちょっとしたコツをつかむことで、演奏に大きな違いがでてくることが分かりました。また、転調も重要な要素です。シューベルトの作品は遠隔調への転調が頻繁に出てきますが、そこでの音色の変化を意識することによって、色彩感豊かな世界を作り出すことができます。わずか20小節にも満たない部分でも変化に富んだ世界が広がっているようで、興味深く聞きました。シューベルトの《ワルツ》は技術的には決して難しい作品ではありませんが、久元先生のご指摘のとおり、旋律の形、和声、転調を丁寧に読み取ることで、生き生きとした音楽表現が可能になるのだと思います。

 続いて歌曲「さすらい」を取り上げ、伴奏部分の変化のつけ方についてヘルムート・ドイチュの興味深いアイデアを紹介してくださいました。有節歌曲では同じ伴奏が数回繰り返されますが、それに毎回変化をつけていくのです。例えばこの曲では、1番から4番まで「さすらい」、「水の流れ」、「水車」、「石臼」というように歌詞の主要テーマが異なりますが、それをピアノでも表現するとのことです。楽譜上は同じ伴奏でも、「水の流れ」はペダルとレガート奏法、「石臼」はノンペダルとアクセントというように弾き分けることで、ピアニストも歌い手と共に詞の世界を描き分けることができるという興味深いアイデアに、聴講者の方々も興味深く聞いておられました。

 このようにシューベルトの歌曲ではピアノパートにも、歌詞の理解が要求されますが、そのことによって歌い手と共に詞の内容に即した表情豊かな世界を創り上げることができるのです。これがシューベルトの特徴であり、最も重要なことであるといえるでしょう。そして、この歌曲へのアプローチはピアノ作品を演奏する際にも十分に応用が効くのです。ピアノ作品でも「この部分にはどんな詞がつくかな?」と想像し、表現することで、歌心あふれた世界を創り上げることができるのです。

 続いては多くのピアノ学習者が好んで演奏する《即興曲》作品90−3を取り上げました。歌謡的な美しい旋律が魅力的な曲ですが、バランスよく演奏するのは意外と難しいものです。主旋律は極めてシンプルなものですが、よくよく旋律を見ていくと、盛り上げていくべきところ、抑えるべきところが見えてきます。和声の微妙な使い分けや転調も巧みで、これを意識的に表現することで、演奏の質がぐっと上がることでしょう。このようなことは自分1人で練習していてもなかなか気づきにくいこととは思います。特にシューベルトは一見シンプルな音楽が極めて自然に流れていくことが多いので、大胆な和声、転調は、見過ごしてしまうかもしれません。久元先生のアドヴァイスはそのような細部の重要な部分に気づかせてくれるものでしたし、実演によりそれはより明確な形で伝えられました。

 続いての作品は《即興曲》作品142-3です。「ロザムンデ」のテーマによる変奏曲で、多くの人々に親しまれている名曲です。この曲では、弾きにくい部分での演奏のコツ、テクスチュアを理解したうえでの適切な表現を中心に解説されていました。また、拍の取り方も重要なアドヴァイスでした。シューベルトの音楽では必ずしもメトロノームでの拍に囚われてはいけない部分が多く出てきます。風のようにレガートで演奏する部分は、軽やかに流れるように演奏しなければなりませんし、装飾音が多く入っている箇所は、多少のテンポの揺れは必須になります。また、各変奏ごとの特徴をつかむことによって、演奏にメリハリがつくのだということが先生の実演を通してよくわかりました。

 最後、時間の都合もありほんの一部の解説になりましたが、《楽興の時》第3番に少し触れて、レクチャーを終了しました。5回にわたって開催された久元先生のレクチャーですが、分かりやすくかつ内容が濃いもので、ピアノ学習者、ピアノ教師にとって大変参考になったことと思います。

 なお、このレクチャーは「今後も開催してほしい」との要望が相次いだことを受け、続編が開催されることが決まりました。詳細は未定ですが、久元先生のお話によると、続編では今回触れることができなかったシューマンやショパンを取り上げていく予定のこと。ピアノに興味がある人にとって見逃せない内容になりそうですね。

(M.S.)

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