毎夏恒例のロシアン・ピアノスクールもいよいよ折り返し、今夜は講師のアンドレイ・ピサレフ先生をお迎えし、講師の模範演奏会として、チャイコフスキーのピアノ組曲《四季》全曲が演奏されました。
今年2月にモスクワで行われたピサレフ先生のリサイタルでは、当日券を求める人々で、2階建ての音楽院の小ホールに人があふれたと聞きます。日本にいながら、ロシア最高峰のピアニストのロシア音楽の演奏を、しかもこんなにも間近に聞けるなんて、なんとも夢のような体験ではないでしょうか。
今回ピサレフ先生が演奏された《四季》は全12曲からなり、作曲者が過ごしたロシアの景色と人々の情念が想起される、性格的な組曲です。先生は幅広い表現と技巧をもって、チャイコフスキーがそれぞれの曲にふんだんに取り入れた、ロシアの冬の物寂しさ、祝祭の気分、歌心、詩情を十全に表現されていました。また、先生ご自身が「多様な表現ができる」と評価されたカワイ・ピアノの魅力が、先生の十指から生まれる音色の美しさ、強音から弱音の、そして表現の喜怒哀楽の幅広さによって遺憾なく発揮されていると感じました。とりわけ印象に残ったのは第9曲〈9月:狩り〉で、分厚い和音の連続であっても技巧的な難しさを感じさせることなく、あくまで美しく表現されるピサレフ先生のピアニズムに、心が揺さぶられました。
アンコールは《2つの小品》から〈夜想曲〉、《ドゥムカ》、《18の小品》から〈夜想曲〉とチャイコフスキーを続けて、最後にはショパンの《ノクターン》作品9-2と、たっぷり4曲を聞かせてくださいました。
満員のお客様は先生の演奏に息を呑み、深く感じ入っており、全ての音が去り行くと、会場は割れんばかりの盛大で熱烈な拍手で包まれました。ロシアン・ピアノスクールのレッスンの受講生のみなさまにとっても、お客様方にとっても、何にも代えがたい、忘れがたい一夜となったのではないでしょうか。