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最終回「ワジェンキ公園とノクターン」

 日々の生活の中で、街を歩いているとふと頭に流れてくる音楽があります。

 今回は、ポーランドで暮らしながら目にした風景と、そこから私が連想した音楽についてお話ししたいと思います。

 留学中、ポーランド南部の山岳地方を訪れたとき、シマノフスキやパデレフスキの土臭い民族音楽が体いっぱいにあふれるのを感じました。またワルシャワでは、森の近くに住んでいたこともあり、背の高い木々が若い緑の香りでいっぱいになる今の時期は、サイクリングによく出かけました。

 立ち止まって目に飛び込んでくる雲の動きや空の色は、美しく絶妙な音色の変化を見ているかのよう・・・。これは何事にもかえがたい貴重な経験として、自分の中に蓄積されています。

 でもまぶしい太陽の季節には、ショパンは似合わないんですよね!やはりショパンの音楽は肌寒さと共にやってきます。同じ晴れた空でも、真夏のギラギラよりも、しっとりとした秋の高い空がしっくりきます。

 秋に近づきつつある夕暮れ時、同じ森を歩きながらふと思い出したのは若きショパンの、ピアノとオーケストラのための「ポーランド民謡による幻想曲 Op.13」でした。

 もう一つ、私が週に1回は訪れていた定番の散歩スポットである、ショパンと柳の像が佇むワジェンキ公園での出来事をご紹介します。

 ここも奥に行けば行くほど深い森で、人気(ひとけ)がほとんどなくなっていきます。私はそこをひとり歩くのが好きなのですが、不思議なことに、そこの空気のにおいを感じる度、必ず頭に流れてくるショパンの作品がありました。

―――――「ノクターン第11番ト短調Op.37-1」――――――

 ノクターンの中でもあまり演奏されることのない、そして自分のレパートリーでなかったこの曲がなぜ思い出されるのか、私自身とても不思議です。でもこの場所に来ると本能で感じるのです。

 これまで、このノクターンは演奏会では取り上げてこなかったのですが、今年秋、ショパンにまつわるワークショップにて解禁することにしました。写真やお話しを交えながらの演奏で、お聴き頂く方に同じ空気、においを感じ取って頂ける時間にしたいと思っています。

 そして、昨年より活動拠点を日本へ移しましたことを機に、この「ポーランド通信」を、今回をもちまして最終回とさせて頂くこととなりました。

 2006年の4月から20回連載を続けさせて頂き、私自身ポーランドやポーランド作曲家の作品を向き合うための基礎となる貴重な機会を頂きました。

 カワイ音楽振興会の皆様、そしてお読みくださった皆様、ありがとうございました。心より御礼申し上げます。

 連載は終了しますが、これからもショパンやポーランド作品のレクチャーコンサートや、リサイタルシリーズを展開してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

 また会場でお目にかかれることを楽しみに・・・!

 感謝を込めて。  根津 理恵子

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