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第3回「ショパンコンクールよもやま話 (3)」 コンサート調律師(MPA) 大久保 英質
コンクールでのピアノ調整、これはまさに睡眠との闘いです。
コンクールでの調律師の仕事は、ステージにあるコンサートピアノを最高の状態に仕上げ、それをコンクールの期間中維持するのが最大の仕事です。したがって調律師の仕事時間は、演奏が終わる夜10時ごろから次の日の朝8時ごろまでの時間帯になります。この時間を参加しているピアノメーカーで分け合ってそれをローテーションしています。
夜中の12時から仕事のときもあるし、明け方4時からのときもあります。日中はピアニストの演奏を聞いているので、当然睡眠時間が減ります。平均4時間ぐらいでしょうか。これが数週間続きます。
昨年のショパンコンクールに、私は前号で紹介された村上MPA のサポートチューナーとしてワルシャワに行きました。そして私は人生初の立ったまま眠ってしまうという快挙(?)を経験したのでした。
ショパンコンクールも後半に入りファイナルも近づいてきたある夜、この日は夜中12時から4時までが調整時間。連日の睡眠不足で疲れもピーク。上司である村上MPAが作業している横で過去最大の睡魔が襲ってきました。
まず最初はガムをかみましたが口の中がスーッとしたのは一瞬、気付くと口は止まり眠りの世界へ・・・・。あ〜だめだ。だめだ。眠ったらだめだ。よし今度は足をつねってみよう。ギューッ。いた〜い!!いたい!いたい。眠い・・・眠りの世界へ・・・・。
あ〜いかん。いかん。上司が隣で仕事しているのに眠ったらだめだ。よし、座っているからダメなんだ。ちょっと立って歩こう。
ツカツカ。おー少し目が覚めた。これなら大丈夫かなと思い、立ったまま腕組みをし、少し目をつむった次の瞬間意識が無くなった。
次に意識が戻ってきたときは、自分の体が床に倒れていくその途中だった。かろうじて後頭部から倒れるのはまぬがれ、しりもちですんだ。しかし立っていても眠ってしまうならどうすればいいんだ・・・。
などと考えていたら、村上MPAの仕事が終わった(ホッ)。朝4時。これで帰って眠れる。
このような日々でしたが、(毎日こんな状態ではありませんが)私にとっては本当に貴重な経験の毎日、そしてすばらしい思い出の残るコンクールでした。
ファイナリストの根津理恵子さん(右側1人目)達と食事会(左側2人目が大久保さん)
大久保 英質 (おおくぼ●ひでみ)
1993年河合楽器製作所入社。SKピアノ研究所所属。
2000年海外研修。2002年帰国。
趣味:ドライブ
特技:仕事道具作り
国際コンクール歴:(主なもの)
・ショパン国際(ポーランド・2005年)
掲載元:「あんさんぶる」2006年6月号より転載。(あんさんぶる編集室に転載許可済み)
あんさんぶる編集室(カワイ音楽教育研究会 機関誌)に無断で転載することを禁止します。
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