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第19回「コンサートエピソード:断線」 コンサート調律師(MPA) 大久保 武
コンサートの調律をする時にあって欲しくないのが「断線!」今回は断線のエピソードを紹介するよ。あれは日田の市民会館だっけなぁ!元NHKのアナウンサーで、ピアノが弾ける事で有名になっていた頼近さんのトークコ ンサートの終わりかけだった。
客席で聞いていたら演奏音の他に 「ビッ」っという嫌な音が ( ̄▽ ̄;)
そして彼女はこう言った。
「クラシックのピアノコンサートだったら舞台袖で調律師さんが控えていて、こんな時は飛んでいらっしゃるでしょうけど、私ごときでは放って置かれるんでしょうね!?」あわてて舞台袖に行ったらステージから彼女が手招きしていて舞台に上がるハメに (*_*)
「調律師さん、本番中に弦が切れるのはよくあるのですか?」
「いいえめったにありません」
「切れた場合はどうするのですか?」
「ユニゾン弦は3本あって、切れても1本か2本は残るので切れた弦を外しますが、休憩等で時間が取れれば新しい弦を張ることもあります」
「今日は時間の余裕がありますので、私がしゃべっている間に張っていただけますか?」
というので、本番中の舞台の上で張りましたよ q(>_<、)q
張り終わって袖に帰ろうとしたら
「ありがとうございました、でも良く考えたらこの後はもうその音は使わないんだったわ!」だって Σ(゜Δ゜*)(ノーマルな二本張りです。)
ドイツのレクリングハウゼンという街でピアノコンチェルトの仕事をした時、スタインウェイの調律が終わってまだ時間があったので、高音部の弦の並びを揃えていたら、「ビッ!」 (ToT)
余分な事はやらないというのを学習したよ ┐(-。-;)┌イタリアのボルツァーノでのブゾーニコンクールでEXとスタインウェイ2台を出してあったけど、一時審査でスタインウェイの1台の高音部が断線した。
その時スタインウェイの技術者がいなかったので事務局から弦を張ってくれと頼まれた。弦を張ったのは良いけれど、その後に音が下がらないようにシゴキ(弦を押さえて伸ばす)をやっていたら、スタインウェイの技術者がきて、イタリア語で 「そんなに押さえたら駄目だ」みたいな事言われて怒られた (;_;)
後日ヤマハのコンサートチューナーに聞いたら「弦を下向きに押さえると後で音が暗くなる」って言われて、その後日本に帰って色々実験してみた。駒の近くの弦を強く押さえてシゴキをやると、駒の端が凹みが発生し弦との密着が悪くなるようだ。だから今は駒の付近のシゴキは弦を横向きに押さえている。
福岡県久留米市の石橋文化センター共同ホールにはEXの50号(EXのシリアルNo)があるけど、そのころのEXは一本張(低音弦と同じく中高音も一本一本張ってある)で切れても隣の弦には影響ない。ある日調律が終わって音出しをやっていると高音部で「ピン」って弦が向こうに飛んで行った。一本張が切れたら反動で飛ぶ場合が多いのです。以来調律している時に誰かが弦の向こう側にいたら避けてもらうようにしている (-_-メ)
(左が一本張り、真ん中と右が二本張りです。)
ベーゼンドルファーってオーストリーのピアノは、弦の張力が高めに設計されていて調律の時に気を遣うんだけど、あるピアニストの自宅のベーゼンを調律していて最低音部に差し掛かった時、音を出した瞬間「バーン!」調律ピンを回してないのに切れちゃった (ToT)/~~~
それからベーゼンを調律する時は、あまりずれてなかったら最低音部はなるべく触らない様にしている。高音部の弦は太さが違うだけで共通なので、いつでも張り替えができるようにいつも調律バッグの中に入っているけど、低音弦は予備を持ち歩くのは不可能なの で、もしもの場合は切れた場所から繋ぐことがある。その後新しい低音弦に換えるけどね!
年に一度定期調律でお邪魔しているピアノ教師から「最低音の1〜2keyの音が変なんです」と電話があり、写真をメールしてもらった。その写真を見てみると、弦の発音部を止めているアグラフという部品のねじの部分が破損していた。断線よりたちが悪い (*_*)
オーストラリアの二週間の出張で5日間滞在したブリスベンのクイーンズランド、グリフィス音大での出来事。グランドピアノを数台調整して、最終日に「ホールでコンサートがあるから良かったら聞いてみませんか?」と言われ、特に予定がなかったので行ってみた (^0^)
ホールにはEXがあって、4〜5百名キャパで音響の評判は良いホールらしいので楽しみだった、が・・・
案内してくれた先生が「調律は専属のチューナー(滞在中お世話になったライアン氏)がやったけど、リハーサルで弦が切れたらしいの!」
ライアン氏は帰っていたのを知っていたので、あわてて工具を持っていって舞台袖に着くと開演まであと10分 (>_<;)
ピアノに近づくと聴衆は何事かと思ってるみたいだったが、そんな事お構いなしにとにかく時間に間に合わせるのに必死だった。とにかく落ち着いてと自分に言い聞かせ、何とか終わらせて舞台袖に戻っていたら観衆から割れんばかりの拍手をいただいた (^^ゞ
休憩時間にも許す限り手直しをしたら、後半の演奏は大変良い響きだったと大変感謝された。
次の日、日本に帰るため空港に送ってくれるライアン氏同行で大学へ立ち寄って、 昨日のコンサートの調律のお礼を言われ、お土産もたくさんもらった。 o(^-^)o>
今からもトラブルいっぱいあるだろうけど、冷や汗も自分の糧になると思えば歓迎したい。
じゃあまた次の編をお楽しみに (^_^)/~>>>>>
大久保 武(おおくぼ●たけし)
1979年 調律養成所18期生、卒業入社
1989年 海外技術研修生1期生として渡欧
1991年 帰国、ピアノ研究所勤、務EX製作
1994年〜 九州支社MPAとして活動
国際コンクール歴:(主なもの)
1989年 ケルン トマソーニ音楽コンクール
1990年 ボルツァーノ ブゾーニピアノコンクール、ワルシャワ ショパンコンクール
1993年 ミュンヘン 国際音楽コンクール
1994年 ロンドン ナショナルパワー国際コンクール
1995年 東京 日本(東京)国際音楽コンクール
趣味:ゴルフ・ピアノ
特技:ピアノ調整工具作り
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