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第16回「ブゾーニ国際ピアノコンクール」 コンサート調律師(MPA) 大久保 武
ブゾーニコンクール最高位のオリビエ・カザール氏と友人
ブゾーニコンクール3位の野原みどりさん(右から三番目)と日本の参加者
ブゾーニ国際ピアノコンクールはイタリアのボルツァーノで毎年夏に開催されているんだけど、この街はオーストリアとの境に位置しているので口の悪いひとは「ハルプドイチュ」(半分ドイツ)と言ってるよ!
街のほとんどの表示はイタリア語とドイツ語で出してあり、街の名前もドイツ語のボーツェンの方が似合ってるかな!?(ちなみに滞在したホテルはイタリア語で「ルナ」、ドイツ語で「モントシャイン」どういう意味か分かるよね〜!
そのコンクールは一次審査が非公開で関係者も入れなくてちょっと変わってたなぁ。ピアノはどこかの楽器店(アルフォンスィー?)が提供したスタインウェイ2台と、我がEXの合計3台でスタインウェイは地元の年配の調律師、EXは最初の調整はT氏がやったが他のコンクールと重なっていたので、後はワタシが引き継いだよ。
結果的に国際コンクールであれだけ成果の上がったのは初めてで、最高位他本選入賞者の半分はEXを使った。日本人の使用者も多かったよ!
最高位(1位無しの2位)となったフランスのカザール氏は汗っかきで、一時予選が終わって休憩時間にEXを勝手に試し弾きしていたので辞めるように言ったがしつこく練習していた。(鍵盤びしょ濡れ(T_T)) そして二次審査からEXを使用してアクロバットな奏法(彼の先生ピエールサンカンが作曲した現代曲は最後肘打ちで終わる!)で聴衆を魅了した。EX使用者で他には韓国のチェヒーヨン、イタリアのロッレロ氏が入賞、日本人では野原みどりさんが見事3位に入賞されました。
ブゾーニコンクールが終わり一度ドイツに戻ってショパンコンクールにだす5台のEXを日本から来た先輩達と研修生三人で手分けしての手入れをしてワルシャワに送った。 初めて東欧に足を踏み入れたが西側との雰囲気の違いに、驚きというより恐怖に似た感覚は20年近く経った今も忘れない。
まず空港に着いたら自動小銃を担いだ兵隊がずらりと並んでいて物騒な雰囲気で、それからの驚愕の一ヶ月を予感させた。
ワルシャワでワタシ達研修生は日本からの参加者やスタッフに日本食等のサービスを目的に民間のアパートを借りたが、入って3日目に部屋の鍵を壊され金目の物と食料品は全て盗られてしまった!(オイラの革ジャン返せ〜ToT)
でも留守の時で良かったよ。居直り強盗なんかで怪我したり、最悪殺されても不思議じゃない空気が漂っていた。それですぐにホテルに移ったけれどそこでも色々あったね全く(*_*)
外資系の立派なホテルだったけれど、ドイツに電話しようとして交換手に頼んでから繋がるのに一時間なら早い方で、忘れた頃にかかって来る!聞けば回線数が少なく一般の国民が電話を持とうとしても十年(1990年当時)待たないと順番が回ってこないらしくて信じられなかった。また自分の部屋のバスタブで洗濯しようと思い、お湯を溜めたら赤茶っぽい土で濁っている時があって参ったねあん時ぁー!
参加者の練習用にワルシャワ音大(ショパンアカデミー?)に3台のEX とRX-Aを貸し出していたので調律したが、音大の他のピアノも調整してくれと頼まれたので、何台か実施したが、まぁ〜すごかったねー! 弦が切れっぱなしっていうのは結構あったけど、ハンマーがない!鍵盤がない!これが音大?日本の音大がいかに恵まれているか痛感しましたよ。(いやまて恵まれすぎてるかも!)
コンクールでの舞台となったホールにはステージの上に7台のコンサートピアノが並び、参加者はかなり長い時間を貰ってピアノを選んだ。内訳はベーゼンドルファー1台、スタインウェイ2台、ヤマハ2台そしてカワイ2台。
ピアノ選びの時、今でも覚えてるのがその頃ワルシャワに留学していたTさんで、後の旦那様になるSさんが審査員席あたりで聞いていて、Tさんが一台ずつ単音で音をだしてSさんが「だめー次ー」っていう具合に順番に進み、EX(160号器)の時にSさんが「それー、それにしよう!」 そしてついに最終選考まで進み、TさんとSさんの二人三脚で見事栄えある入賞を勝ち取られました。
ブゾーニコンクールでも入賞したイタリア人の今は亡きロッレロ氏もEXを使用し入賞したので、カワイとしては満足いく結果だった。
またスタインウェイを使ったロシアのアンナマリコヴァも入賞し、彼女はその後のシドニーコンクールでペーター(一話目に出てきた)と仲良くなり、1993年のミュンヘンコンクールでEXを使い優勝するのだが、詳しい話はまた今度ということで・・・ドゥビゼニア!(ワルシャワ在住の小林倫子さんにポーランド語をいくつか教わりました、ジェンドブルイ、ジェンクイエン、プロシェン)
ワルシャワから帰った後、研修期間も残り半年あまりとなり、技術的に何を学んだか?もっと色々体験したいと焦りに近い気持ちが出できていた。
そんな時ドイツ南部ラーフェンスブルクのディーラーのピアノハウスボーガーにお世話になる事になった。
とても家庭的で親切なファミリーは本当に歓迎してくれて、楽しい滞在だった。この話の続きは次回にゆっくりするね!
ショパンコンクール入賞の高橋多佳子さんとカワイスタッフ
ショパンコンクール最優秀演奏賞の及川浩治さん
高橋多佳子さんの先生で後に結婚された下田氏とカワイの小山氏
大久保 武(おおくぼ●たけし)
1979年 調律養成所18期生、卒業入社
1989年 海外技術研修生1期生として渡欧
1991年 帰国、ピアノ研究所勤、務EX製作
1994年〜 九州支社MPAとして活動
国際コンクール歴:(主なもの)
1989年 ケルン トマソーニ音楽コンクール
1990年 ボルツァーノ ブゾーニピアノコンクール、ワルシャワ ショパンコンクール
1993年 ミュンヘン 国際音楽コンクール
1994年 ロンドン ナショナルパワー国際コンクール
1995年 東京 日本(東京)国際音楽コンクール
趣味:ゴルフ・ピアノ
特技:ピアノ調整工具作り
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