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中井 正子 シューベルト:即興曲集 全8曲 ピアノ公開講座
開催レポート
第1回 2019年 10月11日(金)10:30-12:30 
♪即興曲 第1番 ハ短調 Op.90-1 D899  即興曲 第2番 変ホ長調 Op.90-2 D899
会場:
カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 本日は、毎度多くの方が受講にいらっしゃる、ピアニスト中井正子先生による公開講座でした。今日からはシューベルト《即興曲集》Op. 90とOp.142のシリーズがスタートしています。ピアノを学習する方でしたら誰でも触れる機会のある曲集であるとともに、発表会やコンサートの場でも人気の楽曲ですので、受講者の方々にとっては一段と馴染みのあるテーマだったのではと思われます。

 シューベルトの晩年期に書かれた4曲の即興曲は、連作歌曲《冬の旅》をはじめとする名曲と並行して書かれており、艶やかに変わってゆく音楽の色彩と、その根底に現れる重々しいテーマの両方を感じさせます。そうした単純そうに見えつつも一筋縄では捉えられないシューベルトの音楽を表現するには、楽譜に書かれている指示や楽曲中の和声・転調の仕組みをよく見てゆく必要があります。

 本日の講座のお題となったのは、Op.90からの第1番と第2番。第1番は突如主和音以外で始まる葬送行進曲を思わせる旋律が、強烈な印象をもたらす楽曲です。この旋律の雰囲気を充分に引き出すには、音の1つ1つに指で丁寧に重さをかけると共に、楽譜に記載されているスタッカートの意味をよく考える必要があります。この重々しい主旋律にスタッカートがついているのはやや不思議に思われますが、重さのかかった音1つ1つがその跡を残してゆく様を想像すると、指の置き方や重さのかけ方について、色々なイメージが膨らみます。その後には、この主旋律を基軸に滑らかな三連符の中で右手と左手が旋律を引き受け合う変イ長調の部分、そして同音連打とともに再びハ短調が戻って来る部分が続きますが、そこでも中井先生は様々な表現の工夫を提示されていました。変イ長調の主旋律はやや堂々とした曲想で弾くことで、短調の時と印象ががらりと変わります。同音連打は極力弱くしかしリズムが安定するような指使いで演奏し、主旋律が短調に戻ってゆく緊張感を生み出す必要があります。楽曲全体で同じ旋律が繰り返されることが多いので、常に「次は同演奏するか」を考えることで表現を豊かにすることが出来ます。コーダは原調のハ短調から同主調のハ長調に転じますが、それでも2つの調が見え隠れするところがシューベルトらしさであり、いつの瞬間にどのような響きになっているかには細心の注意を払う必要があります。

 第2番は第1番に比べると長調の軽やかな部分と短調の情熱的な部分が交代するシンプルな構造に思えますが、それゆえに「エチュード」に聞こえないように配慮する必要があります。そのためには楽譜の強弱を丁寧に再現すること、音程の幅が広いところはエスプレッシーヴォ(表現豊かに)と記載されていると思って大切に音の時間を使うこと、右手のパッセージに時折現れる延ばし音はその意味をしっかり考えることが必要です。

 第1番、第2番ともに中井先生は、楽曲の細かい旋律や音運びをいったん外し、和声だけで練習してみることを繰り返し提案されていました。シューベルトがほぼ古典主義の作曲家達と創作時期を同じにしているにも関わらず「ロマン主義」の作曲家として捉えられるのは、その転調や和声的な変化の多さ、それも敢えてぼかしたかのような変化にあります。多くのピアノ学習者にとってそれらを網羅的に把握するのは大変な業かもしれませんが、シューベルトの当時としては新しい音楽の響きを再現するには、それ相応の楽譜に向き合う時間が必要であることを、切に感じた有意義な講座でした。

(A.T.)

発売したばかりのNew CD

中井 正子 シューベルト 即興曲集 作品90&作品142

 

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