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中井正子“ドビュッシー没後100年記念”
ピアノ作品全曲公開講座(全10回)開催レポート
第10回 2018年 12月14日(金)10:30-12:30 
♪「12の練習曲」
会場:
カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 ピアニストおよびピアノの指導者としてご活躍で、特にド ビュッシーの作品についてはハンナ社から校訂版も出していらっしゃる中井正子先生の公開講座でした。1年にわたって全10回シリーズとなっていたこのシリーズも、あっという 間に第10回目を迎えることとなりました。本日のテーマはド ビュッシーの晩年の大作の1つでもある《12の練習曲》。技術面の難易度もさることながら、単な る「練習曲」というよりむしろドビュッシーの音楽的信条の体現に近い全12曲を、2時間の講座で解説するのはかなり困難かと思われまし たが、中井先生は最後まで1曲ずつを演奏も交えながら丹念に解説していらっしゃり、先生 のドビュッシーへの情熱を感じさせる講座でした。

 この《12の練習曲》は大きく第1番〜第6番、第7番〜第12番の2グループに分けることが出来、第1番〜第6番 は主として音程に焦点が当てられています。いわゆる調性に取って代わるハーモニーや音階を打ち出してきたドビュッ シーにとって、音程は彼の音楽の鍵を握る ものだったと考えられます。よって演奏する私達も、各音程が音楽的にどのような色を持つとともに、その色が彼のあら ゆる作品にいかにして用いられているか を、考えながら演奏する必要があります。例えば、第2番〈3度音程のための〉や第4番〈6度音程のための〉は、調性の楽曲で主導的な役割を果 たしていた3度およびその転回形の6度が用いられているため、テンポが比較的ゆったりし ていることに加えた安定感や明確な色を感じることが出来ますが、第3番〈4度音程のための〉は協和音程でありながらやや空虚な 響きのする4度を中核としているため、非常に神秘的な響きがしま す。また、第1番〈5本の指のために〉は、一見5度 音程の間を動き回る古典的な練習曲と思わせつつ、そのイメージをアイロニカルに崩してゆく興味深い楽曲ですが、この アイロニーを成立させるためにはパター ン化された「練習曲的な」動きと、そこに突然入り混じる不協和な挿入音の弾き方を分けて、対比を巧みにつける必要が あります。中井先生の解説も、技術的に 困難な箇所の克服法に留まらず、いかに曲想をつけ音楽的に演奏するか、という点に重きが置かれていました。

 一方の第7番〜第12番は、音型に焦点の当てられた楽曲となっています。 よって演奏者は各曲でテーマとなっている音型が最大限に活きるよう、リズムやテンポを采配する必要があるのですが、 ここで重要になってくるのが指使いです。《12の練習曲》は「練習曲」でありながら、ドビュッシー 自身が運指の指示を残さなかった作品としても知られていますが、中井先生の校訂されたハンナ社の楽譜では、先生のご 提案する指使いが掲載されています。特に第9番で中心となっているような同音連打では指使いに よってタッチや手の移動の仕方が変わることを、中井先生はご自分で演奏しながら解説されていました。また、跳躍が激 しく曲調も華やかな第12番〈和音のための〉では、先生の見事な実演に会場も盛り上 がっていました。

  中井先生の内容の濃い解説と演奏で、時間はあっという間に過ぎてゆき、会場の皆様も最後まで熱心に耳を傾けたりメモ を取ったりされていました。ドビュッ シーの公開講座シリーズは今回でいったんの区切りですが、今後も先生のお話を聴ける機会を、心待ちにしたいと思いま す。

(A.T.)

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