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中井正子“ドビュッシー没後100年記念”
ピアノ作品全曲公開講座(全10回)開催レポート
第7回 2018年 9月14日(金)10:30-12:30 
♪「小品集1・小品集2」Vol.2
会場:
カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 本日は中井正子先生による、ドビュッシーのピアノ曲についての公開講座シリーズの一環として、彼のピアノ小品についての講座が開設されました。教材として指定されているショパン社のドビュッシー『小品集』は、創作年代で2つの巻に分かれています。そして、中井先生は前回の講座でもこのことを強調していらっしゃいましたが、両方の巻を俯瞰してみることで、ドビュッシーの生涯にわたる作風の変遷をたどることが出来ます。

 創作初期の楽曲を多々含む『小品集』(1)では、ドビュッシーがチャイコフスキーのパトロンでもあるフォン・メック夫人にあてた《ボヘミア舞曲》をはじめ、可愛らしい楽曲が多々現れます。その一方で、細かく見てゆくとドビュッシーの独自の作風として花咲くこととなる、工夫に富んだ和声使いや旋律線が見られます。中井先生は、一曲ずつの特徴を抑えていったうえで、各曲の形式や転調の構造、またそれらを明快にするために必要な演奏上のポイントを、丁寧に解説されてゆきました。《ボヘミア舞曲》は当時流行したバレエのスタイルに似ていて、シーンが次々と変わることが特徴ですが、その音域や曲想の推移を的確に捉えることが必要です。また重音を用いた部分はやや弾きにくいので、声部ごとに分解して練習する必要があります。《ダンス》はペンタトニック(五音音階)にタランテラのリズム、さらに遠隔調への転調と、いわゆる王道の西洋音楽とは一味違う、エキゾチックな曲調が特徴です。また弱音ペダルを巧みに使うとさらに楽曲の雰囲気を自在に操作できます。《バラード》は同じ旋律が土台の和声の変化によって違う色に聴こえる楽曲であり、それを最大限に引き出すべく奏者が冷静にリズムや和声を分析する必要があります。《ノクターン》は旋法的な序奏のついた、やや自由な楽曲ですが、提示部と再現部の声楽のデュオのような曲想、中間部に潜む序奏と同じモチーフなど、楽曲中に散りばめられた音楽的要素をよく捉えなければなりません。

 晩年期の作品をも含む『小品集』(2)は、創作初期にはなかった音色や音楽的な演出を感じることが出来ます。《スケッチ帳から》はサラバンド調のリズムを特徴としており、途中では即興性を演出するかのようなパッセージが現れます。こうした部分ではパッセージそのものだけではなく、それを支えるバス音をペダルでどう延ばすかといった工夫も必要です。《コンクール小品》は「Musica」という雑誌に掲載された、楽曲から作曲家を当てるトピックで扱われたものですが、有名な〈ゴリウォークのケークウォーク〉を思わせる軽快なリズムと、ややサスペンス的な雰囲気が特徴です。ドビュッシーはポーの小説をオペラにしたかった気持ちがあったようで、それがこうした作風にも反映したのかもしれません。また、この楽曲で見られるユーモアに富んだ雰囲気は、そのまま《小さな黒人》にも反映されます。《英雄的な子守歌》はベルギー王とその兵士たちを讃えたものですが、ベルギー国歌も引用された工夫に富んだ楽曲です。ピアノ曲であるにもかかわらずファンファーレとそのエコーを感じさせる音型などからは、オーケストラ曲としての色を感じます。最晩年期の楽曲にあたる《エレジー》は、ドビュッシー自身の命の衰えを感じさせる痛ましい楽曲ですが、そこに表れている悲しみや諦めの表情は大変美しいもので、その美しさを引き出すには装飾の1音ずつを大切に扱う必要があります。

 今日の講座はたくさんの曲が含まれていたので、休憩無しで2時間を超えるものとなりましたが、ご来場の皆様は最後まで熱心に耳を傾けていらっしゃいました。ドビュッシーについてもっと深く知りたいと思えた、充実の時間でした。

(A.T.)

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