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中井正子“ドビュッシー没後100年記念”
ピアノ作品全曲公開講座(全10回)開催レポート
第5回 2018年 5月18日(金)10:30-12:30 
♪「前奏曲集 第1巻・第2巻」 Vol.1
会場:
カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 中井正子先生による「“ドビュッシー没後100年記念”ピアノ作品全曲公開講座(全10回)」の第5回が開かれました。

 今回取り上げられたのは『前奏曲集第1巻・第2巻』Vol.1。Vol.2の講座は10月12日に行われますが、今回は8曲取り上げます。

 前奏曲集は、ショパンの楽譜の校訂を行ったこともあるドビュッシーが、彼に倣い12曲ずつ書いた作品。タイトルが各曲の初めでなく最後に書かれているのは、タイトルのイメージに囚われることなく音楽の本質を聴いてほしいということによります。

 「野を渡る風」。ヴェルレーヌの詩の中の、ファヴァールによるエピグラフから付けられたタイトルです。ppなので弱音ペダルで軽やかに弾き始めます。左手の八分音符のB音はスタッカート、他は十六分音符ですが、ペダルを付けるのならば、ぼやけてしまわないようハーフペダルで、踏みすぎないように付けます。5〜6小節の装飾音はあくまでも装飾音として聞こえるように。9〜12小節は、スタッカートも書かれていますが大きなフレーズを保ちます。13小節からは冒頭と同じ音形ですが、スフォルツアンドとクレッシェンドがあります。15〜16小節はハーモニーが変化して最後の音が変わります。17小節、ppからのクレッシェンドは本来クラシックではやりませんが、風が吹く感じで。22〜23小節は、風が淀んでいる感じです。28小節では突風が吹きますが、もたつかないように。34小節目からは冒頭の音形に戻ります。54小節から最後に向けて、風が吹き抜けて去っていく様子です。

 「音と香りは夕暮れの大気に漂う」。ボードレールの詩「夕べの調べ」の一節から取ったタイトルで、この詩にインスピレーションを得て書かれた曲です。4分の3拍子でありながら、括弧で4分の5拍子と書かれているのは、曲の出だしの3拍子と2拍子の組み合わせによるもの。アンバランスな様子が魅力となっています。9小節からのメロディーは詩の中のヴァイオリンを指しています。曲の最後に「遠くから聞こえる角笛のように」とありますが、実は31小節の角笛のG音から、音と音価が変化しつつ最後の53小節へと繋がり、角笛の音は遠のいていくのです。

 「西風の見たもの」。第1巻12曲中もっともヴィルトゥオーソ的で華やかな曲です。西風は荒々しい風のことで、冒頭からざわざわと始まります。3小節から少しずつ変化し、5〜6小節のクレッシェンドとディミヌエンドで最初の風が吹きます。10小節や13小節の装飾音はぴゅっと風が来る感じです。15小節からは何かが始まります。オクターブで同じモチーフがエスカレートして音の厚みが増していきます。25小節からは中間部。荒々しい風は静まりますが、不安な感じです。ここからはトッカータ風です。35小節に向けて盛り上がりますが、バス音に注意します。38小節からは和音の表現になり、クラヴサン風のトッカータが43小節から変化し、リストの曲に出てくるような和音になります。63小節からはコーダ。今までと変わって踊りのようなリズムが出てきて盛り上がり、69小節で終わるかと思いきや、最後の突風が吹きます。最後は「付加6度の和音」です。

 「亜麻色の髪の乙女」。亜麻色=北欧系の白に近い金髪のことです。ドビュッシーが19歳の時にこのタイトルのル・コント・ド・リルの詩で歌曲を作曲していますが、約30年後にこの「前奏曲集」を作曲しています。冒頭は単旋律でp、爽やかに始めます。五音音階風の旋律は詩の副題「スコットランド風小歌」と関係があるかもしれません。12〜13小節はハーフペダルでバスのGes音を残します。14小節はペダルを使わず、piu pで。そして15小節で盛り上げ、16小節の装飾音は少し早めに入れます。曲全体でもっとも強くなるのが21小節のmfで、ここに向けて盛り上げます。22〜23小節でオクターブで下がり、24小節で元のテンポに戻ります。ここから五声になりますが、重くならないように。35小節のノン・レガートもペダルを使います。ペダルを如何に使うかが大事です。

 「とだえたセレナード」。スペイン風の音楽で「ギターのように」と指示がありますが、ギターのつま弾きのように始めます。17小節あたりからの5度の音程はまさにギターを表しています。46小節で突然違う音楽が出てきます。他の家の人が「うるさい!」とピシャリと窓を閉めるかのような感じです。そしてまたつま弾きが始まり続きのメロディーが出てきます。80小節、急に他の音楽が聞こえてきます。これはオーケストラのための「映像第3集」第3曲「イベリア」の第3楽章「祭りの朝」のモチーフです。そこへ現実的なモチーフが戻り、中断、セレナードに戻った時には伴奏形が変化していきます。そうして終わりに向かうと、冒頭のモチーフが出て、ギターのつま弾きで終わります。133小節のアクセント・テヌートは強調します。

 「枯葉」。第2巻では3段譜になります。3段使わないと書き表せなかったということです。冒頭は不協和音から始まりますが、解決せず、いくつかの特徴ある和音だけで進んでいきます。ドビュッシー独特と言えます。41小節で再現部へ。3小節目のバス音が変わっています。47小節では、Bの部分の三和音のモチーフが出てきますが、Aの再現と思いきや、AとBが重なって聞こえるようになっています。41小節から最後までcis音が鳴っていますが、響きが工夫されています。

 「ヴィーノの門」。スペインに行ったことのないドビュッシーですが、ファリャにはスペイン人よりスペイン風に書くのがうまいと言われていたそうです。そのファリャから送られた絵葉書にあったグラナダのヴィーノの門の絵からイマジネーションを湧かせて書いた曲です。「ハバネラ風に」とあるように、スペイン舞曲のリズムで書かれており、荒々しい響きを表現するために複調が使われています。42小節で最初のモチーフが戻り、様々に寄り道して、66小節でやっと5小節からのモチーフが戻ってきます。形式が少しずつ違って再現されるので、演奏するのに少しまとめにくいとも言えます。

 「花火」。フランスの革命記念日の花火をイメージしているのでしょう。最後にはフランス国歌が出てきます。「前奏曲集」全24曲の締めくくりの曲として国歌を取り入れた、フランス人らしい部分と言えます。出だしは複調的で、左手は白鍵、右手は黒鍵のみで書かれています。モチーフが分解されて徐々に発展したり、また縮小したり、自在に変化する即興的形式が存在しています。コーダとなる90〜93小節で国歌が出てきて終わります。

 次回の7月13日(金)は、「アラベスク・ベルガマスク組曲」が取り上げられます。

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