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松本和将 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲 公開講座&全曲演奏会 第8回
開催レポート
〜若き巨匠、松本和将氏による ピアノ・ソナタ全32曲講座&演奏シリーズついに最終回!〜
◆公開講座

2017 年
5月10日(水) 10:30〜12:30 
♪ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 作品111
会 場/
カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 本日はピアニスト松本和将先生による、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲公開講座の最終回。メインの内容は最後のソナタ第32番の解説ですが、松本先生は講座の前半の時間で、今まで紹介した31のソナタ全てを振り返りました。こうして全てのソナタを振り返ると、ベートーヴェンがピアノ・ソナタの作曲を通じて、様々な作曲技法や作曲スタイルを獲得しては手放し、また別のものを追究してきた様相が見えてきます。初期のソナタでは古典的な和声を用いながらも、ピアノという楽器の音域を精一杯活かして、より豊かな響きや嵐のような激しさを実現しようと挑戦していたことが窺えます。中期のソナタでは、旋律ではないものの魅力を開拓したり、新しい和声の在り方に挑んだりしています。例えば有名な第14番(通称『月光』)の第1楽章では、音楽の流れや表情を、主題と呼べるような旋律にではなく、少しずつ変化しながら漂う三連符の音型、すなわちこれまで伴奏として旋律の陰に回っていた音型に委ねました。また、第17番(通称『テンペスト』)および第18番では、主和音以外から楽曲を始める手法で、よりドラマティックな表現を試みます。第23番(通称『熱情』)を書き終えた後の作品では、ベートーヴェンは歌曲風のもの、コラール風のものなど更に様々なスタイルでソナタを書き、その中には第27番『告別/不在/再会』など唯一自ら標題をつけたものも含まれます。音楽の方向性もそれまでの「ベートーヴェンらしさ」としばしば言われるような、雄渾で明確なゴールをもって進んでゆくようなものから、やや内向的で移ろいやすい表情のものに変わってゆきます。

 そんなベートーヴェンの音楽の変化の果てに生まれた第32番のソナタは、冒頭で強烈に響く減七の和音に象徴される通り、他のピアノ曲と比べていっそう悲劇的な第1楽章を持ちます。和声は当時としては斬新である一方で、バロック的な音楽内容も併せ持っており、苦しみを募らせたようなフーガが進行する先には、ピカルディ終止(短調の曲が同主調の長三和音、すなわち明るい和音で終わること)が待っています。最終楽章にあたる第2楽章は、松本先生いわく「答えを探す旅」。モーツァルトやショパンといった「名旋律」を紡ぎ出した作曲家達の曲に比べて、旋律ではない部分に音楽の魅力を詰め込んだベートーヴェンの音楽は、誰かに訴えるというよりも自己完結しているような表情を持っています。よってこの第2楽章の変奏曲も、第5変奏でようやくこの音楽で問い続けた答えを見つけ、改めて来た道を振り返る、という物語をイメージしながら演奏することが出来ます。

 今回の講座で非常に印象的だったのが、松本先生が「譜読みは読書のようなものだと思う」と語っていたことでした。楽譜も本と同じくそこに描かれた世界をそのまま目の前に映し出してくれるものではありませんが、それゆえに私達にたくさんの読み方やイメージを与えてくれます。松本先生とともにベートーヴェンが鳴り響かせようとした音楽を追い求めた、長期間におよぶ一連の講座は、先生への惜しみない拍手とともに幕を下ろしました。

(A.T.)

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