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松本和将 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲 開催レポート
公開講座&全曲演奏会 第7回(全8回) 
〜若き巨匠、松本和将氏による ピアノ・ソナタ全32曲講座&演奏シリーズ〜

◆公開講座
2016 年
12月2日(金)10:30〜12:30 
♪ピアノ・ソナタ 第29番 変ロ長調 作品106「ハンマークラヴィ―ア」
会 場/
カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 ピアニスト松本和将先生の『ベートーヴェンピアノソナタ全32曲公開講座&演奏会』シリーズ第7回の後半が、12月2日パウゼにて開催されました。今回は、第29番《ハンマークラヴィーア》です。過去の講座でもご紹介いただいたヨアヒム・カイザーの著書も時折参考にされながら、実演を交え明快なレクチャーを展開されました。

 このソナタの作曲当時、ベートーヴェンが非常に良いピアノを手に入れたことの他に、前後の10年間がベートーヴェンにとってスランプの時代であったようです。先生は、全楽章を通して作曲当時の心境を表したかのように、「第1楽章から第3楽章までは心の迷いや嘆きが描かれ、第4楽章で解決する」といった物語をつけながら、ご自身の詳細な分析に基づき解説をしてくださいました。一部ご紹介させていただきます。

 第1楽章:まず、このソナタはベートーヴェンが唯一メトロノーム記号を書いていることと、この楽章冒頭の演奏法の説明、第一主題冒頭の3度の跳躍(変ロ音と二音)がこのソナタ全体の核になることをお話しされました。それに加え、ここでは転調についての細やかな解説が印象的でした。ト長調で提示部が終わると突然ハ短調で展開部が始まるなど、中期までの考えを練り上げて転調していた書法とは異なる点も見られます。展開部ではフーガが3回登場すると同時に、迷いを表すように様々な方向へ解決のない転調がなされ、主調の変ロ長調から最も遠いロ短調へ到達します。これは、嘆きが遠くまで来てしまったことを表しているようです。そして、再現部でも転調が行われ、コーダで主調へたどり着いたことを確認するかのように締めくくります。

 第2楽章:この楽章は、他の楽章の演奏時間が10分以上かかるのに対し、わずか2〜3分ほどです。第1楽章と第3楽章の繋ぎの役目を果たしており、風が吹くように終われると良いとのことでした。ここでも、冒頭は3度の跳躍で始まります。160小節目からのロ音、変ロ音、嬰イ音による両手のオクターヴが迷いを示し、168小節目からのPrestoで耳鳴りのように進むべき方向を確信するものの、172小節目からのTempo I.で、モヤモヤと確信できないまま第3楽章へ進みます。

 第3楽章:この楽章について先生は、「ベートーヴェンの告白」と仰っておりました。「Appasionato e con molto sentimento(情熱的に、そして非常に感情を込めて)」と指示されているように、どうしようもない悲しみが表現されています。ベートーヴェンが出版後に付け加えたとされる冒頭のイ音と嬰ハ音の3度の跳躍の後に、嬰へ短調で「懺悔の歌」が始まります。14小節目のト長調への転調で一瞬希望を見出すも、16小節目で暗い主調に戻ります。そして、28小節目で「嘆きの歌」が始まるのですが、「con grand’ espress.(非常に表情を込めて)」の指示があることから、それだけ嘆きが深いことがわかります。このようにして、転調や発想用語を手がかりにしながら細やかな解釈がなされていきました。

 第4楽章:ここでは、長大なフーガが展開されます。フーガの前の部分は、第3楽章からの繋ぎになります。先生は、この繋ぎの部分を第9交響曲の第4楽章で「歓喜の歌」が始まる前の部分と同じ脈絡であると述べられていることは大変興味深かったです。そして、フーガの部分が始まってすぐに、主題冒頭でのイ音と変ロ音の2つの音で、これまでの楽章での迷いや嘆きが解決します。そして、「私が主役!」と言わんばかりに各声部で主題が頻繁に登場したり、主題が二倍の長さに引き伸ばされたり、逆行形になったり、二重フーガになったりと、混沌としながらも巧妙に展開されていきます。最後は、「この道があっている!」と確信を得て、栄光の中で曲が終わります。

 筆者は、このソナタに対して難解で近寄りがたい印象を抱いておりましたが、先生のインスピレーション豊かな解説を拝聴し、このソナタの凄さを心から実感いたしました。12月19日(月)に今回の講座に基づく演奏会、来年春にはシリーズ最終回が予定されております。非常に楽しみです。

(K.S)

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