| |||||||
|
|
松本和将 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲 公開講座&全曲演奏会 第6回 開催レポート
〜若き巨匠、松本和将氏による ピアノ・ソナタ全32曲講座&演奏シリーズ〜
◆コンサート
2016 年7月12日(火)19:00 開演 18:30 開場
♪ピアノ・ソナタ 第22番、第23番「熱情」、第24番「テレーゼ」、第25番、第26番「告別」
回を重ねてきたベートーヴェン「ピアノ・ソナタ 全曲公開講座&全曲演奏会」も、ついに中期ソナタの終わりと後期の始まりへ。今回の演奏会は、ソナタの番号順ではなくなりますが、ラストに「熱情ソナタ」を据えたプログラムが組まれました。やっぱり締めは「熱情」。これしかないという決意の表れです。最初に演奏されたのは、第24番「テレーゼ」。「熱情」のあと、4年の歳月を経て作曲されたというこの曲は、何て歌心に満ちているのでしょう。癒しと安らぎの第1楽章は、演奏会本番では緊張感もプラスされ、美しさだけではない、ピンと張りつめた真摯な音楽を感じました。一転して、冒険心にワクワクする第2楽章は、元気に突き進む音楽。ベートーヴェンは、こんな陽気な心も持っていたのですね。
続いて、第25番。別名「カッコウ」。第1楽章は突き抜けて明るい音色で、のどかな田園風景を感じました。中間部で、右手と左手とを交差させて弾くところがあるのですが、交差させずに弾くこともできると講座の時におっしゃっていました。演奏会当日はどちらで弾くかお楽しみに、と予告されていましたので、ここは注目! 結果、交差させず。それでも響きの立体感は素晴らしく、演奏フォームに落ち着きを感じました。流石! 第2楽章の深い哀しみ、ロマンティックな歌の美しさ。これほど純粋で夢見るような旋律は、そうそうありません。第3楽章はドイツの田舎の踊りのような音楽ということでしたが、軽やかでユーモラスでした。
前半の最後は、第26番「告別」。魂の込もった第1楽章の出だし3音「さようなら(Lebe wohl)」。この最初に尽きるとのことでしたが、演奏を聴いて、なるほど!と思いました。別れの辛さと楽しい思い出とが目まぐるしく交差して、音楽としては輝かしい展開を見せます。見事です。第2楽章は孤独と不安、会いたいという苦しい心境。第3楽章は再会の喜びが炸裂して、はち切れんばかりの幸福感でいっぱいになります。堂々のハッピーエンドですね。
休憩をはさんで、後半は第22番から。第1楽章はのびやかな付点のリズムの旋律と、決然としたオクターヴのパッセージとが交互に現れ、繰り返される展開。不思議な曲ですね。第2楽章では、今度は右手と左手とが均等に展開。終結部では大きな盛り上がりを見せます。
そしていよいよ最後、第23番「熱情」。演奏の前にしばし鍵盤を見つめて精神統一。張りつめる緊張感。第1楽章の開始です。天に救いを求める人間と悪魔との壮絶な闘い。講座で、これは凄まじい悲劇であるというお話がありましたが、あらゆる強い感情を総動員したドラマチックな展開。なんという荒々しさ、凄まじさでしょう。第2楽章、場面は一転して静けさ。中間部の純粋な美しさは天国の調べのようですが、この楽章においても、人間は救われないといいます。哀し過ぎる運命です。第3楽章は真剣勝負。なりを潜めていた悪魔が姿を見せます。鬼気迫る渾身の演奏に、息を呑みました。クライマックスのトルコ行進曲の激しさが効果的。怒濤のラストまで、一気になだれ込んでいきます。会場は、大きな拍手と歓声に包まれました。
次回から、後期のソナタの真髄へと迫る旅が始まります。ベートーヴェンはどんな心境へと達していくのか。楽しみに待ちたいと思います。
(H.A.)
ホーム(ニュース)> 公開講座シリーズ > 松本和将 公開講座&全曲演奏会 > 開催レポート