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中井正子 ピアノ公開講座 開催レポート
『 J.S.バッハ:インヴェンション 』〜分析と演奏の手引き〜(全5回)
第5回 2016年 10月14日(金)10:30-12:30 
♪第13番 イ短調、第14番 変ロ長調、第15番 ロ短調

   

 5回にわたりご好評を頂いた中井正子先生のバッハ《インヴェンション》講座も今回が最終回となりました。今回取り上げられたのは曲集最後の三曲、13番(イ短調)、14番(変ロ長調)、15番(ロ短調)でしたが、そのうち先生がとりわけスポットを当てたのは、このうち最初の13番でした。先生曰く、この曲はバッハが「和声家」としての一面を示した曲で、@器楽的書法、A和声法、B対称性、という三つの教育的意図があるとのことでした。器楽的書法は、冒頭などにみられる両声部による音形のかけあいにみられ、半音階的書法は減七和音のゼクエンツや「ナポリの6」などにみられるものです。楽曲の対称性は先生が楽譜を印刷して持ってきてくださった、初稿と最終稿の比較から明らかとなるものです。バッハはこの曲を改稿する際に、曲の構造が対称になるように小節を付け加え、対応関係を作ったということが、この比較ではっきりとわかりました。演奏の際に気をつける点についても、先生は音楽理論・実践の両面から深く、わかりやすく解説されていました。初回からたびたび繰り返されていることもあり、指や手の使い方やリズムによって、インヴェンションの特色である二声の対位法を目指す、という点を強調されていたことも印象的でした。

 第14番は、バロック時代に盛んだった「フランス風序曲」の様式による楽曲である、と先生は指摘されました。つまり、前半が緩やかな速度で装飾音符が多く、後半に急速になり、フーガ的な展開を示す、という性格をもっている、というわけです。この曲の細分化されたリズムや声部の掛け合い、上がって下がるというような音形などから、右手と左手の独立性のためのエチュードとして考えられるそうです。

 第15番は、「カプリッチョ」という曲想を持ちます。これは、ある厳格な原理にしたがっているのではなく、「性格的音楽」である、という意味合いです。教育的作品集の最後にこのような一種「自由な」音楽を持ってくるというところに、バッハのユーモアが見えてきます。先生がこの曲に見られる特徴に注目されたのは、半音階的な複雑性でした。冒頭の主題は半終止、つまり「ファ♯・ラ♯・ド♯」の和音で終結するのですが、その次に出てくる応答にはすぐに「ラ?」の音が出てくるのです。これは「潜在的対斜」と呼ばれ、この音楽を複雑な、変わったものにしているとのことです。

 最後にまとめとして、インヴェンションを演奏するときは、その曲の持つ構造や性格を把握しておくこと、それをどう表現するか、どう演奏するかをあらかじめ考えておくことが大事、と先生はおっしゃいました。また、古典派以前の音楽の特徴をもつバッハの楽曲には、「バロック」という言葉の語源ともなった「ゆがみ」が構造化されており、それを意識することが肝要である、とのご指摘も、印象的でした。ピアノを学習する際に必ず通る道と言える《インヴェンション》ですが、作られた時代や楽曲の内部などの文脈に立ち入って演奏法や表現法を考えることの重要性を強く感じさせられ、毎回の沢山の来場者の方々も盛んにメモをとり、うなずきながら受講されている、大変面白い講座でした。

 中井先生の次回の講座は来年に開催されます。内容は、今回から引き続きというかたちで、バッハの三声の《シンフォニア》を取り上げられるとのことです。楽曲の内部に深く踏み込んだ、わかりやすい講義に、今から期待が高まります。

 (Y.A)

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