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ミュンヘン国立音楽大学教授
今峰由香 ピアノ公開講座 開催レポート
〜ヨーロッパのレッスン風景 第5弾〜
〜古典を楽しく魅力的に〜
2016年
4月1日(金) 10:30 〜 12:30
会場/
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」(東京都渋谷区神宮前5-1)

  

 この春も、ミュンヘン国立音楽大学で教鞭をとっていらっしゃる今峰由香先生が、「古典を楽しく魅力的に」というテーマでの公開講座を開かれました。このシリーズは既に第5弾を迎えていますが、やはり古典主義時代の作品というのは、クラシック音楽の礎となっているがゆえに、美しく仕上げるのが難しいのでしょうか、平日の開催にも関わらず多くの方が聴講にいらっしゃいました。

 本日今峰先生が採り上げられたのは、躍動感あふれる装飾音が特徴的なハイドンのニ長調のソナタ、通称「トルコ行進曲」で有名なモーツァルトのイ長調のソナタ、1楽章の音型が「かっこう」の鳴き声に似ていると言われるベートーヴェンのソナタ第25番。いずれもピアノのレッスンの場ではしばしば扱われる作品です。これら3つの作品はそれぞれ異なる音楽的特徴を備えており、もちろん各々の曲で注意しなければならないことがあるのですが、今峰先生が本日の講座で一貫して強調されたのは、アーティキュレーションを丁寧につけることでした。ピアノは他の楽器に比べて弓の上げ下げや息継ぎといった動作がないため、文字通りに楽譜を読んだだけでは単調な演奏になってしまい、それどころか楽譜に指示されている奏法が指の都合で正確に守れていない、という事態も起こりやすくなっています。しかしながら、繊細なアーティキュレーションこそがピアノの演奏を立体的にします。例えばハイドンのニ長調のソナタの第3楽章冒頭は、非常にシンプルな2拍子の旋律ですが、よく見ると1拍目の四分音符から2拍目にかけてスラーが延びており、さらに2拍目の2つの八分音符にはスタッカートがついています。これを、1拍目から2拍目へのスラーはヴァイオリンの弓を下げるイメージで、2拍目の2つの八分音符のスタッカートはそれまで下げていた弓を上げることによる弾みと捉えると、自ずと1拍目から2拍目にかけて僅かなデクレッシェンドが生じ、2拍目のスタッカートが軽やかになります。こうするとこの3楽章の冒頭は、繊細ながらも弾けるような音楽になります。

 また、古典の作品を弾きこなすには総合的な感覚が必要です。例えばアンダンテAndanteという速度表示は、確かにアレグロAllegroなどに比べたら遅く演奏しなければなりませんが、重々しく弾いてしまうと本来のandare=前に進むという意味が失われてしまいます。よって、ややゆったりとしながらも音楽が進んで聞こえる最良のテンポを探らなければなりません。強弱についてもなぜその強弱記号がそこにあるのか、前後との関係をよく考えなければなりません。例えば、もともとピアノで始まっているフレーズにクレッシェンドとスフォルツァンド、そして再びピアノがついていたとするならば、そのスフォルツァンドを強く弾き過ぎると音楽が不自然になってしまいます。

 ここで挙げたアーティキュレーション、テンポ、強弱以外にも、今峰先生は装飾音の入れ方からペダリングまで、演奏にあたって留意しなければならない事項を1つずつ丁寧に説明されていました。先生のご説明と模範演奏を通して、古典の作品を美しく演奏するには、たくさんのことを常にバランスよく見ていなければならないことがよくわかりました。それはとても難しいことかもしれませんが、少しでも達成してゆくことで、その人の音楽の幅がぐっと広がるのだと思います。

(A. T.)

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