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松本和将 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ
全曲 公開講座&全曲演奏会 第4回 開催レポート
◆公開講座

2015 年10月30日(金)10:30−12:30 
♪ピアノ・ソナタ 第10番 ト長調 作品14-2
 ピアノ・ソナタ 第17番 二短調 作品31-2 「テンペスト」
会 場/
カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

  

 ピアニストの松本和将さんによる画期的なシリーズ、「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲公開講座&全曲演奏会」の第4回より、ソナタ第10番と第17番[テンペスト]の公開講座の模様をお伝えしましょう。

 「この中に、第10番(かなり地味)について聴きたくていらっしゃったという方は?(挙手ゼロ)今日はテンペスト・デーですね!」。開口一番、松本さんは嬉しそうにおっしゃいました。松本さんはこれからベートーヴェンを語ろうという時、いつもとても楽しそうです。「でも、第10番のことを話さないといけません。地味な曲をどうやって弾くか」。こうしてこの後、第10番が生命力溢れる素晴らしい曲であることを、知ることになるのです。そして、[テンペスト]の凄まじさ! 想像力いっぱいの講座の一部を、ダイジェスト版でお伝えしましょう。

■第10番

 第1楽章……中学生ぐらいの時によく弾く曲でしょうか。その時ののっぺりしたイメージがどうしても残ってしまう。この曲は、実はアレグロなんですね(速度を上げてさりげなく、流れるように演奏)。左手の分散和音がタイでつながっているので、楽譜を見た感じでは押さえつけてベッタリ弾く印象なのですが、そうではなく、広がるようなきれいな響きを作るように。ベートーヴェンは楽器の発達に合わせてソナタを書いたのですけれど、シンフォニーのような響きが欲しかったんですね。その響きの上に、右手の美しいメロディーを合わせる(左手をベースに、自由に歌う右手。驚くくらいきれいでした!)。冒頭のテンポ感と響きを作るのは、かなり難しいです(途中41〜46小節に突然高速な32分音符のフレーズが入るので、自然なテンポを作るのが難しい)。

 第2楽章……ベートーヴェンの茶目っ気たっぷりですね。強弱記号がかなり極端です。大きくなるのかな、と思っていたら、突然小さくなったりして。一番最後はpで静かだなと思っていたら、突然ffの和音で終わる。聴いている方はビックリするのですが、演奏者はそれを横目で見ながら(心の中でニヤリといたずらっぽく)、スッと第3楽章に入りましょう。

 第3楽章……楽しい楽章です。楽しんで弾きましょう!

■第17番[テンペスト]

 第1楽章……この楽章の調性はニ短調なのですが、冒頭のアルペジオの和音からニ短調の主和音ではない、とても珍しい出だし。この後も全く予想に反する激しい転調が繰り返されます。この曲は1801〜2年に作曲されたのですが、ベートーヴェンがハイリゲンシュタットの遺書を書いたのが1802年10月。先の見えない絶望感があったのだろうと思います。

 冒頭のアルペジオの和音は、神への問いかけ。「自分の苦しみは解決されるのでしょうか?」そのすぐ次に来る激しいパッセージは、神の非情な答です。それでもさらなる希望を求めた(アルペジオ)。でも、返ってくる答は、非情です。これが現実。目の前に立ちはだかる壁。そして激しい嵐に、どんどん巻き込まれていきます。かすかによぎる美しい風景も、迫り来る人生の恐怖にもっていかれます。凄まじい嵐。繰り返される絶望のスパイラル。絶対に気を抜いてはいけません。

 第2楽章……すべてを失った男の過去への憧れ。どこかに希望があって、それを見出そうとして、やっとつかんだ。幸せの予兆。心臓の鼓動が聞こえる。天から降り注ぐ光の粒。でもそれは、指の間からスルッとすり抜けて、失われていく。すべてはまぼろしだった…。第2楽章以降はもはや、第1楽章のような現実の人生のドラマとしての嵐ではなく、心の中の葛藤としての嵐です。

 第3楽章……何もなくなってしまった。喪失感。想像を絶する絶望感の、さらに先を行っているのではないかと思います。曲の感じから、よく「エリーゼのために」のような美しさがイメージされやすいですが、そんな感覚ではありません。行き場のないやるせない気持ちのまま、pとfとの間を激しく行きつ戻りつします。嘆きと虚無感の中、曲の終わりはスッと終わらせたい。音楽が終わった直後の沈黙に、深い意味があります。

 [テンペスト]というと第1楽章がメインで、第3楽章は何となく美しい、内容が薄い、というイメージがあるようですが、実はこの第3楽章こそが、物語の終結として一番大切です。

 講座を聴き終えて、やるせない気持ちが抑えられませんでした。人生に救いはないのでしょうか!!

 前回と今回とで解説した4つのソナタによる演奏会が、この6日後の11月5日に行われました。講座から実際の演奏へ。ベートーヴェンのドラマは際限なく続きます。

(H.A.)

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