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松本和将 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲 公開講座&全曲演奏会 開催レポート
シリーズ第3回
◆公開講座
2015 年3月6日(金)10:30−12:30

  

 いよいよ中盤に差し掛かりました、松本和将先生によるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏・講座シリーズ。今回は有名な通称「月光ソナタ」の登場ということで、平日の朝の開催であるにも関わらず、多くの方が聴講にいらっしゃいました。講座の内容はもちろんのこと、松本先生ご自身による演奏も、非常に聴き応えのある講座となっております。

 ベートーヴェンの作品の中でも最も親しまれているであろうピアノ・ソナタ第14番ですが、「月光」というサブタイトルはあくまで後から付けられた愛称で、ベートーヴェン自身はこの作品を第13番と併せて「幻想曲風ソナタ」と題していました。まさにこのソナタは、松本先生の言葉によれば「救いのない悲しみ」―「束の間の楽園(幻)」―「追われ、どん底へと突き落とされる主人公」と幻想的なストーリーが想起出来るような組み立てになっています。

 松本先生が講座の中で最も強調されたのは、和声を感じることでした。例えば第1楽章では、ナポリと呼ばれる和音を有効に活用したり、和音を半音ずらすことで雰囲気を一転させたりすることで、この楽曲の「少し光が見えたと思ったらまた闇になってしまう」という一貫した状況が創られています。その状況を表現するためには、演奏者がこの和声の揺れを把握した上で、ブレのない音楽観を持つことが大切です。第3楽章についても、強弱記号を文字通りに捉えてフォルティッシモを唐突に演奏してしまうケースがよく見られますが、大きな和声の流れが掴めていなければ、その強弱記号の意味を表現することは難しくなってしまいます。

 また、もう1つ松本先生が講座の中で時間をかけてお話しされたのは、楽譜の指示を受け身に捉えるのではなく、積極的に疑問を抱いて色々な可能性を試してみることでした。第1楽章にはしばしば「センツァ・ソルディーノ(ダンパーを外して≒ペダルを踏んで)」という指示が見られますが、現代のピアノでベートーヴェンが書いた通りにペダルを踏んでしまうと、音が濁ってとても美しいとは言えない響きになってしまいます。だからと言ってその指示を無視して、はじめからペダルを極力踏んだままにする可能性を否定してしまうのも、正しいとは言えません。松本先生の演奏を聴いていると、その演奏方法に至るまでに色々な弾き方や表現の仕方を試したのだなという軌跡が見えて、ピアノ学習の大きな歓びはそうして自分の一番納得のゆく演奏を見つけることにあるのではと思われます。

 第13番の説明は第14番よりもやや短いものになりましたが、和声やその他の技術的な話に加え、ベートーヴェンのソナタにしばしば登場するようになってゆく「アタッカ(前楽章と次楽章を連続して演奏すること)」が大きな話題になりました。現在ベートーヴェンのピアノ・ソナタは、一部の楽章のみしか演奏しないという場合も多く、楽章間の接続が問題になることはあまりありませんが、各楽章の終わりと次の楽章の冒頭のニュアンスを少し意識するだけで、ガラリと楽曲の印象が変わってしまう、ということが松本先生のお手本からは伝わってきました。

 来る4月2日には、今回と前回の講座で採り上げられたソナタが松本先生ご自身の手で演奏されます。今日先生が講座でお話されたことが、どのように実際の演奏に反映されるのか、あるいはお話以上のことが演奏から伺えるのか、とても楽しみです。

(A. T. )

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