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久元祐子 ピアノ演奏法講座 開催レポート
『一歩上を目指すピアノ演奏法vol.5』(全5回シリーズ)
第5回 2014年5月15日(木) 10:30〜12:30
♪「ショパンとプレイエル・ピアノ」
参考書:学研「ショパンとプレイエル・ピアノ」
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」
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毎回好評を博している、ピアニスト久元祐子先生の公開講座『一歩上を目指すピアノ演奏法vol.5』。全5回にわたるシリーズ最終回は、4月末に発刊されたばかりの久元先生の著書『ショパンとプレイエル・ピアノ』の発刊記念講座ということもあり、本書の内容に沿って、レクチャーが進行されました。
まず、ショパンの愛したプレイエル・ピアノ特徴をご紹介されました。同時代の楽器でリストの愛したエラール・ピアノとは対照的だったことに驚きました。エラール・ピアノは、現代のピアノの礎となったダブルエスケープメントの機能を持ち同音連打の素早い動きが可能で、華やかな音色が特徴としています。それに対し、プレイエル・ピアノは、音量が小さく、シングルエスケープメントのため機敏性はエラール・ピアノに及ばないですが、柔らかく香りのある音色が出せたとのことです。ほかにも、現代のピアノは弦が交差して張られているのに対し、平行に張られていること。突き上げ式(イギリス式)アクションで、オーバーダンパーであり、高音部にはダンパーが付いていない。そのため音が「スパッ」と切れるのではなく、ふんわりと余韻を残すように切れること。弦の上を蓋で覆うことで複雑な響きを創り出せる「第2響板」が付いていること。黒鍵の角が丸みを帯びており、黒鍵から白鍵へ指を滑らせやすかったことなど、非常に繊細な楽器であったことがわかり、興味深く聴かせていただきました。
続いて、ショパンを弾くためのポイントを説明してくださいました。ショパンは、若い頃からオペラを愛していたため、作品中のスラー、アゴーギクやルバートなどは、歌い手の息づかいを表していたり、デュナーミクの変化は陰影を表すなど、至る所に歌唱の要素が盛り込まれています。また、ショパンの指使いは、白鍵に短い指、黒鍵に長い指を用いるなど、動きの少ない自然な指使いを選んでいたようです。時折5−5−5や5−4 5−4など繊細な指による指使いが見られますが、これは、歌い手が大事な言葉に思いを込め、丁寧に歌うような箇所に相当します。この部分を乱暴になることなく時間をかけて歌えるようにするため、あえて弾きにくい指使いを指示しているとのことです。
以上のことを踏まえ、本書に掲載されている8作品、ノクターンOp.15-2、《24の前奏曲》Op.28より第7番、第15番〈雨だれ〉、ピアノ・ソナタOp.35より第3楽章〈葬送行進曲〉、マズルカOp.59-1、ワルツOp.64-1〈小犬〉、ワルツWN47〈別れ〉、即興曲Op.posth〈幻想即興曲〉、練習曲Op.10-12《革命》について、楽器の特性に合った弾き方、歌のようなフレージングを表すようなタッチや手首の使い方、転調や不協和音の表現の仕方など非常にきめ細やかな解説をしてくださいました。筆者の印象に残った事柄は、ペダルについてです。プレイエル・ピアノは、ペダルを離しても響きの余韻が香水の残り香のように残っていたようです。しかし、現代のピアノでは、離した時にこのような余韻が残らず、踏みはじめも響きが大きくなります。ショパンのペダルの指示は当然プレイエル・ピアノに沿っているため、その通りにペダルを用いるとかかりすぎてしまいます。そのため、踏んだか踏まないかといった浅めのペダルが役立つとのことです。ここでは、プレイエル・ピアノの特徴を再現するかのようにあらゆる深さでの踏み替えや、バイブレーションのように波打つように踏む方法などを伝授してくださいました。
このスペースでは、講座の全てをご紹介できないことが残念ですが、楽器の特徴などを大変わかりやすくお教えくださり、ショパン作品を読み解くための大きな手がかりとなりました。久元先生ありがとうございました。
(K.S)
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