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カワイコンサート NO.2320
イ・ヒョク ピアノリサイタル 開催レポート
2022年10月10日(月・祝)18:00開演(17:30開場)
会場:アクトシティ浜松 中ホール(静岡県)
急速に秋の気配が深まった10月10日、イ・ヒョクさんをお迎えしてアクトシティ浜松中ホールに於いてカワイコンサートが開催されました。
イ・ヒョクさんは2018年第10回浜松国際ピアノコンクールで第3位を獲得し、浜松での人気と知名度が一気に高まりました。そして記憶に新しい2021年第18回ショパン国際ピアノコンクールではファイナリストとなり、一次予選から一貫して選定したカワイSK-EXで素晴らしい演奏を聴かせてくださいました。その貢献に対し、開演前に河合弘隆社長から感謝状を贈呈するセレモニーも行われました。
前半のプログラムはショパンの3曲。まずは『ノクターン第17番』から。この曲はジョルジュ・サンドとの破局が決定的となり、失意と孤独の晩年に書かれたノクターン。冒頭のアルペジオからたっぷり時間をかけてドミナント和音に移行するたった2小節の序奏で、既に心を掴まれる美しさ。ショパンの詩情と共に諦観が感じられる旋律を、作為のない素直な歌心と繊細な美音で紡いでいて、深く引き込まれました。それにしても弱冠22歳の若手ピアニストに何故こんなにも成熟した表現ができるのでしょう!?
続いて『ピアノソナタ第2番〈葬送〉』。4楽章とも全く性格が違うこのソナタ、通して感じられたのは端正さ。第1楽章の激情的な第1主題でも決してその興奮にのまれすぎず、常に抑制が効いて崩れないフォルム、第2楽章のスケルツォのリズムの小気味良さ、第3楽章の葬送行進曲の悲しみに満ちた足取りと天国的に美しい中間部の対比、第4楽章の霧や靄がかかったような神秘的なフィナーレ、と多彩な表現を見せながら一貫して端正さ、品格を感じさせる演奏でした。
技術面で印象的だったのは楽器の響きのコントロールの巧みさ。SK-EXの特長のひとつである低音の響きと倍音の豊かさ、また会場であるアクトシティ浜松中ホールの残響の長さは、ともすると音楽の輪郭が不明瞭になるリスクもあります。しかし、イ・ヒョクさんの音は全てコントロールが行き届き、どんなに音楽が白熱しても明確で、左右の響きのコントラストが立体感や距離感を生み、ホールの響きも最大限活かして非常に奥行きのある音空間を作り出していました。
前半最後は『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ』。こちらも響きのコントロールはますます冴え渡ります。爽やかな風が吹き抜けるような『アンダンテ・スピアナート』、そしてファンファーレに続く『華麗なる大ポロネーズ』は鮮やかな技巧を見せつつも正に「宮廷舞踊」としてのポロネーズそのものといった気品と優雅さ。着飾った貴婦人やシャンデリアが見えるようなきらびやかで華やかな世界に聴衆をいざなってくれました。
後半はイ・ヒョクさん自身が「ロシアで長年勉強してきた」というパワフルなロシア音楽2曲。ここで私たちは再び驚かされます。
1曲目はプロコフィエフ作曲『4つのエチュード Op.2』。最初のタッチから、ショパンとは全く違うスタイルだ、ということを否が応でも納得させられる圧倒的な力強さ。プロコフィエフ特有の一音一音の核がくっきりしたメカニカルな音色で強靱なテクニックを印象づけられました。
プログラム最後はムソルグスキーの大作『展覧会の絵』。曲の持つスケール感と土着的なエネルギーを感じさせながら決して粗野にならないのはイ・ヒョクさんのキャラクターでしょうか。
冒頭のプロムナードは、「絵から絵へと巡り歩く」という本来のイメージの通り、比較的抑えたテンポとテンションで始まります。続く第1曲『こびと』の地を這い回る不気味さ、第2曲『古い城』の悠久の時を思わせる息の長さ、第3曲『テュイルリー』の軽快さ、第4曲『ピドロ』の牛車の重々しさ、第5曲『殻をつけたひな鳥の踊り』のコミカルさ、第6曲『サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ』の裕福で太った男と貧乏で痩せた男の対比、第7曲『リモージュの市場』のせわしなさ、第8曲『カタコンブ』の重厚さ、第9曲『鶏の足の上に立つ小屋』の強烈さ、そして壮麗極まりない終曲『キエフの大門』と、各曲を見事に描き分けながら最後まで集中の途切れない名演!! お客様からはもちろん熱狂的な拍手とスタンディングオベーションが送られました。
鳴り止まない拍手に応えてくれたアンコールはなんと5曲!! ショパン作曲ノクターン第13番、プレリュード第16番、英雄ポロネーズ、チャイコフスキー作曲『18の小品』より瞑想曲、ラフマニノフ作曲プレリュードOp.23-5という大サービス。イ・ヒョクさんの「弾くのが楽しくてたまらない!」という気持ちが溢れ出るような素晴らしい演奏に会場中が幸せな空気で満たされました。
若くして幅広い音楽性と品格も備わったイ・ヒョクさんのこれからのご活躍がますます楽しみになったコンサートでした。
浜松事務所 杉山 園実
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