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カワイコンサート NO.2259
アレクサンデル. ガジェヴ ピアノリサイタル 開催レポート
2017年6月7日(水) 19:00開演(18:30開場)
会場:渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール(東京都)

 梅雨入りしたこの日、どんよりと厚い雲に気分も滅入り、リサイタル前半のショパンの名曲に癒されることを期待しつつ席に着いた。

 1曲目、ショパン「ポロネーズ第1番」。撫でるように鍵盤に張り付いたタッチで奏される繊細なビロードのようなPPの音色、控えめなルバート、抑制されたfと歌い方を聴いているうちに、重厚な絨毯や高級な調度品、肖像画が並ぶ貴族のサロンにいるような錯覚に陥った。2曲目「舟歌」でも同様の感覚になり、ショパンが好んだというプレイエルのピアノを復元しているように思われた。

 3曲目「ソナタ第2番」第1楽章では、第1主題の切迫感、第2主題の安堵の対照が際立つ。和音の連なりはメロディーを主軸にしたハーモニーではなく、ふんわりとしたスポンジケーキに生クリームとイチゴを挟んだショートケーキのような、柔らかで程よい甘さの口当たりの良い響きであった。第3楽章「葬送行進曲」では、バスb音をペダルを踏み替えず保ち、弔いの鐘が鳴り続けた。

 前半のプログラムを聴き終え、ショパンに敬意を払いながらも従来のショパン像の枠にはまらない創造力、そしてその極上の仕上がりに、癒しどころか全身の細胞が活性化された。

 後半はリスト「巡礼の年 イタリア」から。

 始めに「ペトラルカの3つのソネット」。ここでは鍵盤を掴み取るようなタッチで豊かな音色を作り、メロディーを朗々と歌い上げる。そしてそっと寄り添う伴奏。ほぼ同時期に歌曲としても作曲されているいという。その演奏から、ドレスに身を包んだソプラノ歌手とタキシード姿の伴奏者が舞台に見えた。

  プログラムの締めは「ダンテを読んで」。規模が大きく、一大スぺクタルものである。彼の高度な技巧、ホールいっぱいに鳴り響く音響、オーケストラを連想させる多彩な音色は、まるでオペラを観ているようで、圧倒的な迫力を持って会場全体を別世界へと導いていた。

 アンコールには、ショパンのマズルカとノクターン、リストの「イゾルデの愛の死」。

 2015年優勝した浜松国際音楽コンクールでは、弱冠20歳にして円熟した音楽にアルゲリッチら審査員が驚いたという。

 アンコール前に行われた花束贈呈の時、ようやく20代の若者らしいチャーミングな微笑みが見られた。進化系ピアニストの今後の活躍に心が躍る。

                            城南事務所  鈴木久美子

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