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カワイコンサート NO.2240
三浦謙司 ピアノリサイタル 開催レポート
2016年5月17日(火) 開場18時30分 開演19時00分
会場:堺市立東文化会館メインホール(大阪府)

  

 5月17日、堺市立東文化会館メインホールにて、三浦謙司氏のリサイタルが行われた。三浦氏は現在、ハンス・アイスラー音楽大学にて研鑽をつむ、1993年生まれの23歳。10歳で、来音会ピアノコンクールにて優勝し、2009年、ドイツのワイマールで開催された、若いピアニストのためのフランツ・リスト国際ピアノコンクールではファイナリストに選ばれた。そして2015年、第9回浜松国際ピアノコンクールにて奨励賞を受賞、同時に、アーリンク・アルゲリッチ財団よりAAF奨学金を授与された。同コンクールにてカワイフルコンサートピアノ、SK−EXを選択、演奏し、今回のカワイコンサートで、SK−EXと共に、私たちを美しい音の旅へと誘ってくれることになった。

 まだ少年のようなあどけなさが残る、華奢で穏やかな青年のイメージの三浦氏だが、第1曲目の、ショパン「バラード第1番ト短調作品23」から、良い意味で裏切られた。というのは、冒頭の部分から持続する深み、外に向かって噴出するというより、内なるものへの洞察に満ちた音色が、若い演奏家のそれでない印象であったからだ。エネルギッシュなパフォーマンスより、内に秘めているものが大きいほど、音の深み・重み・そして儚さなどの変化を凝縮しているような演奏だった。

 ショパン「3つのノクターン作品9」では、9−1では、素直な心のままに揺れ動く情感、9−2は、絶妙なrubatoで自由に遊ぶメロディ、9−3は、ややエスプリのきいた、三部形式の対比の面白さを味わうことができた。

 前半の最後は、ショパン「バラード第4番ヘ短調作品52」。こちらも、選び抜かれた音色で、憂いの中から、少し温かみのある明るさを見い出そうとしているように感じた。ppのバスの響きが時折、管楽器のようにも流れ、ppの中に逆に厚みを持たせていた。

 後半は色々な作曲家の著名な小品が並んだ。グリーグ「抒情小曲集作品71<森の静けさ>」では、バスがまるで生命の木が伸びていくように深く曲全体を支えていた。ドビュッシー「夢」は輪郭のあるパステルのイメージで、次のスクリャービン「3つの小品作品2より第1番練習曲」は、ロマンティックでメランコリックなスタイルを残した世界観で捉えられていた。そして、ラフマニノフ「絵画的小品集作品39より第5番変ホ短調」では、バスの厚みに圧倒され、次の「前奏曲集作品32より第10番ロ短調」は、分厚い和音が集約した時に混じり合う、混沌とした響きがそのままリアルに伝わった。そのあと、「リラの花」では、まるで風景の中で、そこだけ光が当たったような幸福感にあふれ、続く「ヴォカリーズ」も、細くて弾力があり、深いしっとりとした糸が絡むような美しさに満ちていた。

 最後のプログラム、リスト「超絶技巧練習曲集より第10番ヘ短調」では、余裕をもったパフォーマンスを見せてくれた。クリアな枠組みで作られ、計算された高音の輝きが際立っていた。

 アンコールは、氏自身の編曲で「虹の彼方に」。おりしも、熊本地震が起こり被災された人々に捧げたいと演奏された。JAZZYなアレンジで、氏の多才な一面も見られた。

 全体を振り返ってみると、やはり、23歳の若さで円熟した表現と、特に、弱音の多彩さが印象に残った。将来、歳を重ねていったときに、その円熟味がどう蓄積されていくのか楽しみであり、目が離せないピアニストである。

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