| |||||||
|
|
カワイコンサート NO.2238
海老彰子 ピアノリサイタル
2016年4月29日(金・祝) 開場13時30分 開演14時00分
会場:三井住友海上しらかわホール(愛知県)
4月29日(祝)、恵まれた晴天の下、三井住友しらかわホールにてカワイコンサートが開催されました。今年お迎えしたのは、パリを拠点に国内外で活躍されているピアニスト・海老彰子さん。数々の著名なコンクールにて入賞し、2015年11月に行われた第17回ショパン国際ピアノコンクールにて審査員を、また第8回及び第9回浜松国際ピアノコンクールの審査委員長も務められました。世界各国での音楽活動に意欲的に力を注ぐ、日本を代表する国際的なピアニストのリサイタルには、開場30分前からすでに受付前に長蛇の列ができ、周囲の関心の高さが窺えました。開場10分後には早くも客席のほとんどが埋まり、開演5分前になってもなお、入場の客足が途絶えることはなく、聴衆の期待と興奮が高まる中、コンサートの開演を迎えました。
今回のメインテーマは、フランス音楽。前半は「水」をテーマに、後半はフランス音楽を代表する音楽家ラヴェルを配したプログラム構成にて臨まれました。「水」がテーマの前半プログラムは、武満徹作曲「雨の樹 素描U」から始まりました。海老さんが最初の一音を響かせた瞬間から、憂いと幻想的な響きを湛えた演奏が聴衆の心を捉えます。Shigeru Kawaiが本来備え持つ豊かな音色と、海老さんの指先が奏でる旋律と見事に調和し、会場にいた聴衆全員が、すっかり海老さんの演奏に惹き込まれたようです。続いて、フランスにおける印象派音楽を擁立した作曲家ドビュッシーの作品の中から選りすぐった「水」の曲集。アルペジオの連鎖が美しい「雨の庭」は、瑞々しいアルペジオの雨のなかに一縷の光が射し込み晴れ渡っていく様子を再現し、続いての「オンディーヌ」では、水の精オンディーヌが気まぐれに水と戯れる様子を、変幻自在な筆致で見事に描き出しました。ドビュッシーがその独自の音楽性と絵画的な色彩で描き上げた傑作「映像」からは、「金色の魚」と「水の反映」の2曲。2尾の金色の鯉を描いた日本の漆絵から発想を得たといわれている「金色の魚」は、その金色の鱗を煌かせながら、自在に泳ぎ回る鯉の姿を、技巧的にかつ生き生きと描き出しました。「映像第1集」の代表作「水の反映」は、波の揺らめきや水が映し出す光の陰影など、さまざまな水の表情が繊細にピアノで綴られ、細やかなピアノの旋律で聴衆を魅了します。「月の光」は、言わずと知れた名曲ながらも、月の柔らかな光が織り成す幻想的な情景を、SKで情緒豊かに表し、改めてこの名曲の魅力に感じ入る演奏となりました。最後の2曲は「前奏曲集第1集」より「雪の上の足跡」と「西風の見たもの」を演奏し、これまでとは異なった色彩の曲で変化をつけ、前半のプログラムを締め括られました。
途中、設けられた幕間の休憩時間には、早くも海老さんの演奏に魅了された聴衆が、CD売り場に列をなす光景が見られました。一層期待の高まる中で幕を開けた後半のプログラムは、ドビュッシーと並びフランス音楽を代表するラヴェルの組曲が2つ。1つ目は、3楽章から成るソナタの「ソナチネ」。小規模ながらも、古典派の形式を携え無駄なく簡潔に纏められた完璧な仕上がりとなっているこの曲を、海老さんは各章の特質を捉え、精細な筆致で紡ぎました。簡潔なソナタ形式の第1章から、優美な旋律で変則的なメヌエットの第2章を情感豊かに奏で、第3章からは一転、自由な形式のソナタを躍動的にいきいきと、しかし確かなテクニックで演奏されました。続いての古典形式を呈する「クープランの墓」では、全6章に渡るこの大曲を情感豊かに演奏。古典的なプレリュードを踏襲した格調高い第1曲に続き、古典的ながらも自由な旋律が美しい第2曲を滑らかに演奏、また中間部の第3曲は揺れ動く旋律を抒情的に、第4曲を力強いリズムをもって色彩感豊かに描きました。そして終盤第5曲目は簡素な音で組み立てられた典雅なメヌエットを優美に演奏され、最終曲は同音連打など高度な技巧をもって壮大に描き出し、華々しくフィナーレを飾りました。ドラマチックで彩り豊かな演奏の数々に魅了された会場からは、たちまち割れんばかりの拍手が沸き起こりました。盛大な拍手の中始まったアンコール1曲目は、ショパンの「ノクターンOp.15-1」。ドビュッシーやラヴェルとはまた一味違ったロマンティックなこの曲を、情緒豊かに演奏し、再び我々の心を惹きつけます。続いては、同じくショパンの「バラード第1番」を演奏。これほどの大曲を、あの重厚なプログラムの後にアンコールで弾かれる海老さんのパワーに、聴衆一同、改めて圧倒されました。そして最後は、「幻想即興曲」をドラマチックにかつ華やかに演奏し、本日の演奏を終えられました。閉幕した後、CD売り場には多くの人が押し寄せ、そして海老さんによるサイン会にも長蛇の列ができ、本日の演奏がいかに聴衆の心を捉えたかを物語っています。海老さん自身が仰っていた「フランス音楽独特の変幻自在な魅力」が存分に堪能できるコンサートとなりました。
ホーム(ニュース) > カワイコンサート > カワイコンサート2016 > 海老彰子 ピアノリサイタル > 開催レポート