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秋場 敬浩 ピアノリサイタル 開催レポート
《 東京藝術大学 表参道 フレッシュコンサート Vol.62 》
2021年2月12日(金) 17:30開場 18:00開演
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 

 長年開催されている東京藝大卒業生によるコンサートシリーズ第62回は、2015年に博士後期課程を修了された秋場敬浩さんが登場されました。在学中には国立チャイコフスキー記念モスクワ音楽院で学位を取得され、とりわけロシア音楽に精通した学究派ピアニストです。その多彩な活動に示されるように、演奏には解釈者、表現者、ヴィルトゥオーソとしての表現の幅を感じさせられました。

 本日のプログラムは、ショパン、チャイコフスキー、ラフマニノフ。当時の西洋音楽市場の中心地から離れた「祖国」を持つ作曲家で構成されています。プログラムノーツからは作品に対する秋場さんの眼差しが窺えて、演奏後に再読する楽しみもあります。

 秋場さんの優れた音感の演奏を聴くことは、音が本来あるべき場所に還るのを聞くような快感があります。ショパン《プレリュード》嬰ハ短調 作品45ではソステヌートの音色、テンポ感の上に、《3つのマズルカ》作品56、59では精緻な構成力によってショパンの洗練と素朴さが巧みに現されます。マズルカについてのトークでは、昨年新型コロナウイルス感染症により逝去したピアニスト フー・ツォン氏のお名前を挙げられおり、氏への祈りが感じられる演奏でした。チャイコフスキーは「四季」からの3曲で、遠い記憶を辿るような音との距離感に「回想」の雰囲気が満ちていました。引き続いて終曲は、ラフマニノフ《コレッリの主題による変奏曲》で、美しい主題と変奏技巧を魅力的に聞かせて締め括りました。

 会場には藝大の恩師である野平ご夫妻のお姿も見られる中、アンコールにはショパン《マズルカ》作品63-2、野平一郎「夕暮れの情景」、ラフマニノフ「鐘」、そしてコミタス《舞曲》第4番と即興の選曲で、お客様に演奏会の余韻を残してくださいました。

 一時間の間、盛りだくさんのプログラムを弾き終えた秋場さんは解放された様子で、「一つの曲を弾くことは他人の人生を生きることなので…」と仰っていました。パウゼで音楽に耳を傾けるひとときの「非日常」を、日常の中に組み込んでみてはいかがでしょうか。

(M.S.)

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