| |||||||
|
|
尾島 紫穂 & 奥谷 翔 ピアノジョイントリサイタル 開催レポート
《 東京藝術大学 表参道 フレッシュコンサート Vol.60 》
2020年12月11日(金) 17:50開場 18:30開演 (19:40終演予定)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」
カワイサロンコンサート in 表参道《東京藝術大学 表参道フレッシュコンサートvol.60》は、尾島紫穂(おじま・しほ)さんと奥谷翔(おくや・しょう)さんのピアノジョイントリサイタルです。新型コロナの影響で、思いどおりに演奏会ができなくなって10カ月近くが経過しようとしていますが、このようなリサイタルは、演奏者にとっても、聴く側にとっても、ますます貴重なものになっていると思います。こんな今だからこそ、若きピアニストの演奏に注目です。尾島紫穂さんは、東京藝術大学、同大学大学院を修了し、ウィーン国立音楽大学を最優秀で修了。国内外の複数のコンクールで入賞を果たし、現在はソロ・アンサンブルピアニストとして幅広く活動しています。
奥谷翔さんは、東京藝術大学、同大学大学院を修了し、現在はミュンヘン音楽演劇大学マイスタークラッセ課程に在籍中。国際コンクールを含む、複数のコンクールで入賞しています。
リサイタル前半は尾島紫穂さん。ベートーヴェンの「幻想曲 ト短調 作品77」から始まりました。素早い下降音階で緊張感をもたらしたと思ったら、センチメンタルなメロディー、牧歌的な明るいメロディー、華やかなアルペジオ、ついには変奏曲と、自由な展開。音楽の素直な流れを妨げるかのように、即興的な音階が幾度も現れて、かなり風変わりな曲調でした。尾島さんの凛とした演奏が、爽やかな空気感を醸し出していました。
そして2曲目、ベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110」。第1楽章は柔らかな歌に満ちて、心地よいアルペジオで彩られていました。一転して第2楽章は力強く、かつ哀愁を帯びて。第3楽章は嘆きのレチタティーヴォに始まり、朗々と歌うアリアのように自由に展開していきました。厳かなフーガを経て、暗闇に少しずつ光が差し込み、燦然と輝くフィナーレを迎えます。この変容のダイナミックさが見事でした。
アンコール曲はブラームスの「『6つの小品』より インテルメッツォOp.118-2」で、しっとりと歌い上げました。
リサイタル後半は奥谷翔さん。シューマンの傑作「フモレスケ 変ロ長調 作品20」です。奥谷さんは常に自らが放った音の響きに耳を澄ませながら、音の鳴らし方を吟味し続けるような独特な弾き方で、それが効果的な結果をもたらしているように思いました。
1.Einfach(単純に)……夢想の始まり。ロマンティック。何かが起こりそうな期待感が高まります。美しい音質。
2.Hastig(性急に)……穏やかなモチーフと、追い込むようなテンションのモチーフとの対比。気まぐれなフレーズの間合いが秀逸でした。
3.Einfach und zart(単純に、優しく)……典雅なテーマと、中間部の畳み掛けるような激しさ。
4.Innig(親密な)……思わせぶりな、甘美なテーマ。生き生きしていて魅力的でした。
5.Zum Beschluss(終わりに)……思いの丈を全身全霊で表現するようなドラマティックな進行。輝かしいクライマックスへと向かっていきます。音質や音量のコントロールが絶妙で、決して大仰にはならないところが、楽曲本来の素晴らしさを引き出せているように感じました。
アンコール曲は、同じくシューマンの「アラベスク」。妙なる調べが、空間を柔らかく包み込んでいきました。終結部は、遠くから微かに聞こえてくるような、ベールをかぶったような音質が見事でした。
こうしてリサイタルは、静かにエンディングを迎えました。やはり生のピアノの音は、格別ですね。尾島紫穂さんと奥谷翔さん。今後の活躍が楽しみです。
(H.A.)
|