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東京藝術大学ランチタイムコンサート2020
<大学院音楽研究科修士課程1年生によるピアノジョイントリサイタル Vol.5>
出演:高倉 圭吾 & 橋 莉央 開催レポート
2020年10月21日(水) 12:00〜13:30(11:20開場)
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
東京藝術大学大学院修士課程1年生による本シリーズでは、新たなステップを踏み出した演奏者の皆さんの、様々な試行錯誤の成果を味わうことができます。
高倉圭吾さんは、まるで19世紀のサロンを思わせるように、ショパン的な三部形式のワルツの即興演奏から聞く人を誘います。武満徹《雨の樹素描U》では、発音から余韻まで誠実に選び込まれた音の積み重なりが情景を明瞭に描き出していました。続いてドビュッシー《前奏曲集》からの2曲も、文学作品から着想を得た楽曲です。クライマックスのバッハ《パルティータ》第2番では、高倉さんの音響に対する鋭敏な感覚が存分に発揮されて、対位法的な見方だけでは捉えきれない奥行や色合いに気付かされました。アンコールでは再び即興演奏で、H音を基点に展開されるメシアン的な色彩豊かな音楽で締め括ります。理論や様式を超えて、音そのものから生まれる発想に立ち返った音楽に、最後まで耳を引き付けられました。
対照的に、橋莉央さんはオール・プロコフィエフ・プログラムで、一人の創作者の創作史や人物像を複数の曲から多面的に探るような構成といえるかもしれません。1曲目は、音楽院在学中に作曲された《ピアノ・ソナタ》第1番を、曲想の生真面目さと激情に拮抗して果敢に弾きこなされました。続いては1935年《子どものための音楽》より4曲。目まぐるしく移り行く舞踊、キリギリスの跳躍する足どり、グラデーションの効いた空模様、堂々と振る舞うマーチと、様々な要素を巧みに扱われていました。最後は、ソビエト帰国後の1939年に作曲されたまぎれもない代表作《ピアノ・ソナタ》第7番を、エネルギーを絶やすことなく毅然と弾き切られました。その表現は、政治的な諧謔なのか、創作史の上での必然なのか、それともこの一人物の個性から来るのか…橋さんの解釈を通して、一度の演奏で様々な可能性を考えることのできる、演奏の醍醐味を感じられました。
(M.S.)
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