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木内 夕貴 & 幸重 明日香 ピアノジョイントリサイタル 開催レポート
《 東京藝術大学 表参道 フレッシュコンサート Vol.58 》
2020年10月16日(金) 17:50開場 18:30開演 (19:40終演予定)
会場:
カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 日増しに冬が近づいていることを感じさせるこの頃ですが、今回行われた演奏会では、二人の若手ピアニストが肌寒さを吹き飛ばすような熱量の高い演奏を聴かせてくれました。

 

 

 まず演奏されたのは木内夕貴さん。東欧・フランス・現代音楽の作曲家の曲目を組み合わせた、非常に意欲的なプログラミングです。木内さんの楽曲へのアプローチは耳に心地よく響き、未知のものに触れる喜びを感じさせてくれました。

 冒頭に演奏されたグリーグ《ホルベアの時代より――古い様式による組曲》は、弦楽合奏版がよく知られていますが、実は今回演奏されたピアノ独奏版が原曲です。グリーグがあえて古典的な舞曲様式を取り入れた楽曲ですが、実のところその中には作曲者自身の同時代的な響きが取り入れられていたことが、木内さんの演奏からよく理解できました。グリーグの原曲そのままではなく、「弦楽合奏版を取り入れて」演奏されたということですが、確かにテクスチャの厚みや色彩感が明瞭に感じとれました。

 儚い旋律が印象的なセヴラックの〈ロマンティックなワルツ〉では、木内さんは繊細な強弱付けと声部を弾き分ける巧みさをもって、見事に夢見るような穏やかさを表現されていました。

 バルトークの《3つのチーク県の民謡》は、バルトーク自身が取材した民謡を編曲した楽曲で、3曲の短い民謡旋律が彼一流のやりかたで和声づけされています。歌そのものの情感をしっかりと読み取り、見事に歌い上げるような演奏は、非常に印象的に響きました。

 最後に演奏されたのは存命の作曲家ソッリマのチェロアンサンブルのための《TERRA ARIA》のピアノ独奏編曲版。エネルギッシュなオスティナートの支えの上に、ゆったりとした複数の旋律が組み合わされています。ミニマル・ミュージック的な作風ということですが、非常にドラマティックで生命力に富んだ印象深い楽曲で深く印象に残りました。

 アンコールの《休暇の日々から 第1集》より第5番〈公園でのロンド〉は、繊細でためらうような旋律の歌わせ方が絶妙でした。

 

 

 後半に演奏されたのは幸重明日香さん。ブラームスの《3つの間奏曲》作品117は、晩年のブラームス作品に特徴的な内省性と、音の陰影による気分の微妙な変化の表現が特徴的な曲集です。また、対位法的に複雑に構成されていることも相まって、豊かな表現の引き出しと高度な技法の両方が求められる難曲と言えるでしょう。幸重さんは、後期ブラームスの重厚なテクスチャをしっかりと引き出しつつ、悶えるような「苦悩」をしっかりと表現されていました。加えて音色の深みによって、音楽の表層の美しさのみならず、その奥深さも感じさせてくれました。

 続くゴドフスキー《J.シュトラウス2世『ジプシー男爵』から「宝のワルツ」の主題による交響的変容》は、第一次世界大戦で右手を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインのために作曲された左手のための楽曲です。幸重さんは、左手の5本の指だけで演奏されていることが信じられないほど、豊かなテクスチャをしっかりと把握しながら、楽曲のポリフォニックな側面もホモフォニックな側面も十二分に引き出し、「交響的変容」という表題が示すとおりの大曲を終始美麗に表現されていました。

 アンコールで演奏されたのは前曲と同じく左手のための名曲、スクリャービンの〈ノクターン〉作品9-2でした。幅広い音域とデュナーミクが素晴らしいのは言うまでもなく、それと同時にスクリャービン特有の詩情も見事に表現されていました。

 大曲が並ぶプログラムでしたが、幸重さんの表現力の幅広さと確かな技巧は、音楽に推進力を与えており、最後の一音までそれぞれの楽曲の魅力と豊かな内容を感じさせてくれました。

(A.Y.)

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