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東京藝術大学ランチタイムコンサート2020
<大学院音楽研究科修士課程1年生によるピアノジョイントリサイタル Vol.4>
出演:前田 紗希 & 丸山 晟民 開催レポート
2020年10月8日(木) 12:00〜13:30(11:20開場)
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
本日で4回目となる東京藝術大学修士1年生によるジョイントリサイタルシリーズでは、気鋭の若手ピアニスト達による熱演が続いております。本日の出演者は前田紗希さんと丸山晟民さん。文字通り「演奏する」だけではなく、お2人の作品への学術的なアプローチの一端も紹介された、興味深いプログラムとなっております。
先に演奏された前田紗希さんは、異なる性格を持った2つのピアノ・ソナタを採り上げていました。片方は、古典主義時代の代表的な作曲家であり、「ソナタ」というジャンルを一挙に現代の私たちにまで届けたハイドンの変イ長調のソナタ。もう1つはいよいよロマン主義時代の作曲家達の作風が、「ソナタ」という枠に収まりきらなくなってきた頃の、ショパンによるロ短調のソナタです。
前田さんの演奏は、力強くも気品のある音色が特徴的でした。ハイドンのソナタでは明快なタッチで、古典的なソナタの持つ堅固な形式と優雅な雰囲気を体現されていました。一方のショパンのソナタでは、力強い音運びで、ショパンのピアノ曲の内奥に燃える情熱を体現されていました。特に後半のショパンのピアノ・ソナタは、独奏ソナタとしてはかなりの規模のものですが、前田さんはプログラムノートに書いていらした通り「一つの物語」のように、音楽を纏めていらっしゃいました。
続く丸山晟民さんは、日本では生で聴ける機会の少ないシューベルトの壮大なピアノ・ソナタ第20番を演奏されました。シューベルトは日本では「歌曲王」の呼称で知られ、ピアノ曲についても即興曲や楽興の時といった小品がよく演奏されますが、このピアノ・ソナタも実のところ、彼の歌曲創作との関係を指摘できる一面があり、そのドラマチックな曲調から映画にも用いられています。丸山さんご自身もプログラムノートに、この歌曲創作との関係性を丁寧にまとめていらっしゃいました。
丸山さんの演奏は、非常にたくさんの音色と表現の引き出しがある点が印象的でした。第1楽章から丹念に創り込まれた音楽で、会場を作品の音楽へと惹きつけていらっしゃいましたが、とりわけ第2楽章の哀愁と激情のコントラストや終楽章の繊細な音色の使い分けは見事で、魂の籠った大音響にも美しい極小音にも、会場の方々が静かに耳を傾けていました。アンコールにはやはりシューベルトの歌曲から《美しき水車小屋の娘》の1曲を採り上げ、今回のプログラムを締めくくっていらっしゃいました。
このリサイタルシリーズは11月終盤まで続きます。今日の前田さん、丸山さんの熱演に続き、ここパウゼから若い演奏家の皆様による、音楽のバトンが無事に繋がることを願います。
(A.T.)
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