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東京藝術大学ランチタイムコンサート2020
<大学院音楽研究科修士課程1年生によるピアノジョイントリサイタル Vol.3>
出演:沼田 昭一郎 & 原田 莉奈 開催レポート
2020年9月29日(火) 12:00〜13:30(11:20開場)
会場:
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」

 パウゼではこの秋、東京藝術大学ランチタイムコンサート2020と称しまして、東京藝術大学大学院修士1年生による、ジョイントリサイタルシリーズが行われています。なかなか生の器楽演奏に触れる機会さえ少なかった今年、新進の演奏家の音に耳を傾けられる時間が、大変貴重に思われます。本日登場されたのは、沼田昭一郎さんと原田莉奈さんのお2人。各々およそ45分のプログラムの中にも、確固としたテーマを掲げており、大変興味深く聴くことができました。

 

 先に登場された沼田昭一郎さんは、「幻想曲」をテーマに、時代や国の違う幻想曲を3つ演奏されました。「幻想曲」は実のところ、ルネサンス末期頃から存在する非常に歴史の長い器楽ジャンルであり、時代を経てその意味やかたちを変えながら、現在まで至っています。沼田さんは最初に、バロック後期を代表するJ. S. バッハの《半音階的幻想曲とフーガ》を演奏し、その神秘的な音色で客席を惹きつけていました。ここでの「幻想曲」は、B-A-C-Hの文字が織り込まれていることで知られる「フーガ」に対し、より楽器を自由に扱ったという位置づけです。沼田さんはより厳格で荘厳なフーガへと向かうこの「幻想曲」の世界観を、見事に表していました。続くロマン主義を代表とするショパンの《幻想ポロネーズ》は、しばしばショパンの伝記的エピソードとともに語られる、より内向的な「幻想曲」。その後のロシアの作曲家スクリャービンによる《幻想曲》は、独特な和声の中にも長らく器楽曲を支えてきた明快な形式が存在します。沼田さんは楽曲の性格を非常によく体現しており、あたかも音楽を通じて聴き手がタイムスリップしているようでした。アンコールにはプーランクの洒落た旋律の効いた《エディット・ピアフに捧げる》を演奏し、客席からの大きな拍手を受けていました。

 

 後に登場された原田莉奈さんは、ロマン主義を代表するロベルト・シューマンとその妻クララをテーマにした、味わい深いプログラムを展開されていました。シューマン夫妻は、数いるロマン主義時代の作曲家の中でも稀有な存在で、夫婦ともども後代の音楽家達に強い影響を残しています。クララにとってはロベルトが没した後の人生のほうが、夫婦で過ごした時間よりも長いのですが、彼女の後半生にもやはり、ロベルトの影響が看過できないと考えられます。原田さんは持ち前の甘美な音色で、この夫婦の音楽による対話を、美しく表現されていました。先に演奏されたクララ・シューマン《ロベルト・シューマンの主題による変奏曲》は、クララがロベルトに贈った最後の誕生日プレゼントであると共に、若き日に贈った《ロマンスと変奏》の回想でもあります。原田さんはこの楽曲に含まれたあらゆるメッセージを丁寧に解釈しながら、楽曲を纏めていらっしゃいました。後半に演奏されたロベルト・シューマン《幻想小曲集》は、ロベルトの作品の中でも多くの人に親しまれる初期の代表作ですが、そこには原田さん自身もプログラムノートで書いていらした通り、終曲《歌の終わり》での明るくも不安さの残る鐘の音があります。原田さんはこの曲集の性格の違う楽曲1つ1つを表情豊かに演奏しつつも、全体を通してロベルトのクララへの波乱万丈の恋物語を体現できるよう、音楽を纏めていらっしゃいました。アンコールには、やはりロマン主義を代表するF. リストの技巧が光る〈ラ・カンパネラ〉を演奏。最後まで音楽への情熱があふれたプログラムに、会場は湧きあがりました。

 今回のジョイントリサイタルには演奏者ご本人による丁寧なプログラムノートも付き、演奏会全体を通して出演者のお2人そして関係者の皆様の熱意を感じました。音楽の歓びに浸ることのできた午後のひとときでした。

(A. T.)

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