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有森 博 & 長瀬 賢弘 ピアノデュオシリーズ 開催レポート
ロシア秘選集 Vol.8「語」
2020年9月24日(木) 18:30開演 (17:50開場)
出演:有森 博(ピアノ) 長瀬 賢弘(ピアノ)
会場:
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」

 ピアニストの有森 博さんと長瀬賢弘さんによるピアノデュオシリーズ、ロシア秘選集 Vol.8「語」が開催されました。2013年から毎年開催されている、ロシア作品をとことん追求するシリーズ。これまでも、隠れた名作や、大規模なオーケストラ作品の編曲ものなどを、圧倒的な演奏で紹介してきました。お二人は師弟関係で、ロシア音楽の名手としても高い評価を受けています。今回はコンサートの後半でさらに、有森さんのお弟子さんお二人−−−高井玄樹さん(東京藝術大学大学院)・伊達広輝さん(東京藝術大学3年生)−−−が加わって、素晴らしい演奏を聴かせてくださいました。

 

 今宵最初の曲は、現代の作品。リトアニアの作曲家、バルカウスカスによる、2台のピアノのための「変奏曲」です。第1ピアノ:有森さん、第2ピアノ:長瀬さん。テーマと8つの変奏から成り、12小節にわたるテーマが様々な手法によって絶え間ない変容をみせていきました。時に無機質に、時に温かみをもって、透明感を持って……。現実の不可思議さを音楽にするとこんな感じかしらと思わせるような世界観でした。

 最初の曲を弾き終えたところで、長瀬さんからご挨拶。コロナ禍の見えない恐怖、このような状況での音楽の役割、オンラインを介して音楽を届ける試みが成されている中で、そもそも我々が生の音楽からどれだけ多くの情報を得ていたことか……といったことが、丁寧に語られました。このレポートを書く記者も、自粛生活の中、生の音楽を聴くのは実に半年以上ぶりでした。ピアノという楽器本体から、ダイレクトに発せられる生きた音が、乾いた心と体を潤す。自分がどれだけ渇望していたのかを実感しました。

 

 続いての曲はバレエの傑作、プロコフィエフ「ロミオとジュリエット」の演奏会用組曲です。フランス人ピアニストのアンセルの編曲による2台ピアノ版で、第1ピアノ:長瀬さん、第2ピアノ:有森さん。決して大仰にならない、原曲の美しさを十二分に引き出した編曲でした。若い二人の愛を引き裂く、モンタギュー家とキャピュレット家の忌まわしい諍い。抗うことのできない悲しい宿命。「序奏」−「情景」−「論争」−「少女ジュリエット」−「仮面」−「モンタギュー家とキャピュレット家」−「ガヴォット」−「タイボルトの死」−「別れの前のロミオとジュリエット」−「ジュリエットの死」と10の組曲で、まるでバレエを観たような、ゾクゾクする臨場感を味わいました。

 

 休憩をはさんで、標題交響曲の大作、チャイコフスキー「マンフレッド交響曲」の、ブリューロフ&レンツの編曲による2台8手版。高井さんと伊達さんの登場です。楽章の合間ごとに担当パートを入れ替わったのですが、音楽的なねらいでしょうか、面白かったです。イギリスの詩人バイロンの劇詩『マンフレッド』に基づいた、超人マンフレッドの物語。

 

 第1楽章「アルプスの山中を彷徨うマンフレッド」:悩み苦しむマンフレッド。4人の音楽の真剣勝負が素晴らしい。分厚い音が迫ってきます。第2楽章「急流の虹の下でマンフレッドの前に現れたアルプスの妖精」:目まぐるしく飛び交う曲調。複雑なテクニックが急テンポで交差します。第3楽章「素朴な山岳民族の自由で平和な生活」:歌にあふれたあたたかなメロディー。素敵でした。第4楽章「邪神の地下宮殿」:劇的なクライマックス。激しく乱れ飛ぶ曲調から、マンフレッドの死を暗示する静謐なコラールへ。−−−演奏を終え、満面の笑顔を交わしながら、4人はステージ前方へ。会場は大きな拍手に包まれました。

(H.A.)

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