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【6月24日 振替公演】
クロイツァー記念会 第44回例会
クロイツァー賞受賞者による演奏会 開催レポート
2020年11月6日(金) 開演:午後6時30分(開場:午後5時50分)
会場:武蔵野音楽大学 ブラームスホール

 昭和初期に来日して以来、日本の西洋音楽の普及・発展に大きく寄与したロシア生まれのピアニスト、レオニード・クロイツァーの功績を記念するクロイツァー記念会 第44回例会が、今年も無事開催されました。

 当賞の贈呈対象となる三大学のうち、国立音楽大学からは飯島聡史さんがご登場されました。曲目はショパンから、晩年の《3つのマズルカ》作品59、《ピアノ・ソナタ》第3番 の選曲です。晩年の作品に宿る特別な情念に向けられた飯島さんの意識は、ショパンの憂国の念をもとに書かれた曲目解説にも明らかに思われます。ソナタの演奏では、各楽章の技巧的特徴を捉えつつ、楽章間の絶妙な間やなだれ込むような連なりに現れるように、一段高度な視点で音楽の全体像を見据えられているようでした。こなれた技巧と円熟した精神が昇華された、音楽の美を存分に聞かせてくださいました。

 武蔵野音楽大学からは、古市明里さんが、リストの超絶技巧と宗教的な信仰心の二面的な特徴が顕著な2曲、2つの《伝説》、《死の舞踏》を演奏されました。声部間の拮抗するエネルギーを手中に収め、身体的・精神的にも体力を要する難曲を、芯の伴った自信に裏付けられ最後まで妥協なく弾き切られました。解説でのリストについての記述「ピアノという楽器における無限の可能性を開拓する」こと、「如何なる手段も恐れない創造性」を、まさにご自身が体現されるような演奏でした。

 最後は、東京芸術大学から早坂忠明さんによる、バルトークのピアノ独奏版《舞踏組曲》BB 86b、《戸外にて》BB 89の演奏です。民謡の素材をピアノ曲として落とし込まれたバルトークの作品には、前時代の作品の前提となる形式感とは異なる、民謡素材の性質を元にした独自の語彙やセオリーの存在が感じられます。早坂さんは、まさに一音一音の発音、音圧、残響といった複数の要素を想定して緻密に調合しながらも、その場で鳴り響く音響全体やパルスに対する機敏な反応をもって臨まれました。これ以外考えられない、というような最善手を選び続ける集中力に会場が引き込まれていました。

 年月を経てなお私たちに新鮮な驚きや発見を与え続ける作曲家たちの遺産は、探究心を絶やさない演奏者の存在によってこそ正気をもって受け継がれてきたのだと、改めて思い返させられる演奏会でした。

(M.S)

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