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尼子 裕貴 ピアノリサイタル 開催レポート
《 桐朋学園 表参道 サロンコンサートシリーズ Vol.43 》
2019年
6月19日(水) 開場18:00 開演18:30
会場:
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」

  

 桐朋学園大学の特待生であり新進気鋭のピアニスト尼子裕貴さんの演奏会に心を踊らせて、会場は大いに賑わっていました。

 まず、ベートーヴェン《ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調 作品31-2「テンペスト」》が演奏されました。最初の和音のアルペジオが弱い音量で鳴らされた瞬間に会場には緊張が走り、感性が研ぎ澄まされました。静謐な音色と躍動感溢れる音色の対比が明確で、この作品が持つドラマティックで切迫感が募る響きが見事に構築されました。第2楽章では凍えた手に心地いい暖かさがじわじわと沁みてくるような安心感に包まれました。一音一音を噛みしめながら演奏された第3楽章は、技術的にも表現の上でも充実した演奏が実現しました。

 次のラヴェル《クープランの墓》では、「プレリュード」で水を得た魚のような推進力ある音の粒が降り注がれました。「フーガ」の最後に同時に鳴らされるFisとGの2度の衝突でさえも、尼子さんは美しさを見いだし幽玄な世界観へと昇華させました。また演奏者特有の透明感ある音色は「フォルラーヌ」でその魅力を十分に発揮されました。尼子さんの確信に満ちた解釈はラヴェルの機知に富んだ音楽を十全に現出させました。

 最後にショパン《24の前奏曲 作品28》が演奏されました。演奏者の考え抜いた音色の選択によって、24全ての調性は色彩豊かに格調高い響きで描き分けられました。第7番や第15番といったよく知られた作品では、余韻まで明瞭に聴き取ることを観客に促すような追憶にふける演奏で個性を光らせました。終始エネルギッシュな演奏で圧倒させながらも清涼で伸びやかな音色を維持していました。

 アンコールには、ベートーヴェン《ピアノソナタ第8番 作品13「悲愴」》より第2楽章と、ショパン《エチュード ハ長調 作品10-1》が端正に紡がれました。

(M.S)

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