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中井恒仁&武田美和子 ピアノデュオリサイタル 開催レポート
サロンシリーズ Vol.12 〜変幻自在なる変奏〜
2019年5月18日(土)17:00開演 (16:30開場)
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
本日は、とりわけご夫妻でのピアノ・デュオの演奏で知られている中井恒仁さん・武田久美子さんお二人でのリサイタルでした。各々のソロ活動や教育活動も精力的になさっているお二人ということで、本日はお二人の長らくのお客様と思われる方からお弟子さんと思われる方々まで、多くの方が聴きにいらしていました。本日のデュオリサイタルのテーマは「変奏」。変奏曲はモーツァルトやベートーヴンのピアノ曲が有名な通り、西洋音楽の古典的なジャンルです。お二人のプログラムは、前半でドイツ圏の古典的な手法を用いた作曲家を採り上げ、変奏曲の醍醐味を充分に伝えたうえで、後半はヴァイオリンの巨匠パガニーニを採り上げ、彼の技巧的な変奏曲にちなんだ2台ピアノの変奏曲を紹介する、というかたちになっていました。
お二人のデュオ演奏は、長年の演奏経験によって築き上げられた安定した技術と多種多様な音色が、とても魅力的です。とりわけ各変奏のキャラクターの違いと、作品全体としての構築力が求められる変奏曲というジャンルでは、そんなお二人の技術と表現力が際立ちました。最初は宗教的なレパートリーでとりわけ知られるマックス・レーガーの《序奏とパッサカリア》。会場を静寂に包み込む極小ながらも意志のある音が、徐々に盛り上がりを見せてゆく様には、大きな物語を感じました。次は武田さんお一人による、モーツァルトの《「愚民が思うには」による変奏曲》。こちらはグルックのオペラに登場するバスのアリアをベースにした、ややコミカルな作品です。竹田さんは自ら原作となっているオペラやテーマ旋律に当てられた歌詞の内容を解説し、演奏も解説されたこの作品のアイロニカルな意味合いが、充分に感じられるものでした。前半の最後は、最初に演奏したレーガーに同じく、後期ロマン主義の時代を生きながら古典的な手法を採った、ブラームスの《主題と変奏》。ニ短調の厳格なイメージと途中に現れるニ長調の繊細な曲想のコントラストが見事で、会場からは大きな拍手が贈られました。
後半は先述の通り、パガニーニの主題に縁のある2台ピアノの作品が中心のプログラムとなりました。先に演奏されたのは、日本のクラシックファンにも親しまれているロシア出身の作曲家、ラフマニノフによるものです。パガニーニの主題はあらゆる作曲家が曲をつけてきましたが、その中でもラフマニノフのものは、彼のアメリカでのキャリアを想起させる近代的な和声、グレゴリオ聖歌の引用に見られるようなヨーロッパの伝統、そして彼自身の持つロマンティックな曲想が詰まった、人気の高いものとなっています。本日は独奏パートを中井さんが、オーケストラパートを武田さんが担当させるかたちでの演奏で、中井さんの技巧的な音運びと、それを支える安定した武田さんの音色とが、見事なアンサンブルとなっていました。そしてもう1つ演奏されましたのが、20世紀を代表するポーランドの作曲家ルトスワフスキによる《パガニーニの主題による変奏曲》です。20世紀も半ばに入ってから書かれたこの作品は、和声もリズムもぐっと現代的になりますが、お2人は最後まで鋭敏な音色やリズムに対する感覚と、絶妙なアンサンブル力によって、この曲を粋に仕上げており、会場からは感嘆の声が漏れていました。
なかなか止まない拍手に応え、お2人はブラームスの《ハイドンの主題による変奏曲》の最終部分と、先ほど演奏されたラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》の一部を披露されました。このシリーズは早くも今回で12回目、そして10年間続いたシリーズとのことですが、今後のお2人の音楽をまだまだ聴きたいと思う今宵のリサイタルでした。
(A.T.)
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