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有森 博 & 長瀬 賢弘 ピアノデュオシリーズ 開催レポート
ロシア秘選集 Vol.6「雅」
2018年7月31日(火) 19:00開演 (18:30開場)
出演:有森 博(ピアノ) 長瀬 賢弘(ピアノ)
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
本日は、ロシアもののレパートリーをライフワークに、国内外で活躍されてきたピアニストの有森博さんと、その弟子にあたりモスクワ音楽院で研鑽を積まれたピアニスト長瀬賢弘さんによる、2台ピアノでのコンサートでした。ピアノの高い技術とパフォーマンス力を持ったお2人のピアニストが、舞台でさらなる化学反応を起こすという実に贅沢なこの企画は、今年で既にシリーズ6回目を迎えます。客席は昨年に引き続きいっぱいで、いかにたくさんの方がお2人の演奏を楽しみにしていらっしゃるかが窺えます。本日のプログラムは全て、19世紀末にモスクワ音楽院で教鞭を取っていた作曲家、アレンスキー(1861-1905)の2台ピアノ組曲です。アレンスキーは美しいピアノ・トリオなどが人気の作曲家ですが、2台ピアノにおいても様々な性格の素晴らしい作品を多く残しています。
最初に演奏された第2番の組曲は「シルエット」と副題がついており、そのタイトルの通り、各曲に人物の標題がついています。有森さんと長瀬さんの演奏は、ピアノという楽器で可能な技巧を最大限に見せながらも、ユーモラスな要素や粋な雰囲気を常に漂わせており、そんなお2人の演奏の魅力がこの作品にとても合っていました。特に2台ピアノならではの華やかさをたたえた第3曲〈道化師〉と第5曲〈バレリーナ〉は見事で、会場からはさっそく大きな拍手があがっていました。続く組曲第3番は全9曲から成る変奏曲になっており、全組曲の中でも最も大きな規模のものになっています。しかしながらお2人は、各楽曲の性格をよく捉えて、次から次へとピアノの色々な表情を見せており、30分ほどもある作品があっという間に終わってしまいました。
後半はまず、子供向けに書かれたと考えられる第5番の組曲で始まりました。「子供の組曲」と題されているとは言え、性格やリズムの特徴が明快に示された各曲を、お2人はやはり表情豊かにまとめていらっしゃいました。そして、やや古典的な趣だった第5番の後には、モダンな響きが目立ち作曲上の創意工夫に富んだ第4番の組曲。各々違う表情を持ちながらも、作品としての統一感が図られた第4番では、お2人の精巧な音楽づくりやセンスが特に活きていたように感じられます。とりわけ特徴的な和声進行が示唆される第1曲〈前奏曲〉と前の楽章の回想をしつつ盛り上がってゆく第4番〈フィナーレ〉では、ドラマを見ているかのような心地よい緊張感を得ました。そしてプログラムの最後は若き日のアレンスキーが手掛けた第1番の組曲。優雅さと力強さを兼ね備えたポロネーズが最終楽章にあてられたこの作品で、お2人は華やかにコンサートを締めくくりました。
そして「締めくくりました」とは書いたものの、その後にはこの企画で恒例のアンコール、モーツァルトのピアノ・ソナタの2台ピアノ版、《くるみ割人形》から〈金平糖の踊り〉そしてハチャトリアンの《ガイーヌ》より〈剣の舞〉の3曲が続きました。会場の皆様も、このアンコール含めて楽しみにしていらっしゃるようで、お2人が再度ピアノの座るごとに盛り上がっていらっしゃいました。なお、後半のプログラムが始まる前には、本日譜めくりで駆けつけていらした有森さんのお弟子さんや、ゼミの紹介もございました。有森さんと長瀬さんのピアノの素晴らしさはもちろんのこと、お2人の師弟の絆そして後進への温かい眼差しも感じた、とても充実したコンサートでした。
(A.T.)
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