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田中あかね ピアノリサイタル 開催レポート
“ボンの町から” Vol. 11 〜音楽と文学〜
2018年5月11日(金)19:00開演 18:30開場
会場:
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」

  

 田中あかねさんによる “ボンの町から” シリーズの第11回目は、慶應義塾大学でドイツ文学を研究されている粂川麻里生教授をゲストにお迎えし、文学作品と音楽作品の関係を探究するようなプログラムで構成されていました。

 まずはベートーヴェン《ピアノソナタ 第17番 ニ短調 作品31-2 “テンペスト”》。有名なこの作品も、シェイクスピアの最後の戯曲「テンペスト」の世界観を据えると、孤島で罪の背徳感に葛藤する登場人物の心の模様が妖術によって激しい天気模様へと影響するといった、人間の感情を再現する音楽であったことに驚嘆させられました。第3楽章の冒頭の、左手も右手も互いに短い単旋律を淡々と覆いかぶせていく田中さんの演奏は、追い詰められた心から生じる緊迫感を見事に表していました。

 次に、シューマン《蝶々 作品2》が演奏されました。調が転々とする短い12曲を一つの音楽作品の中に並置するシューマンの一種気まぐれに思われるこの音楽性は、散文かつ次々に話題を展開していくジャン・パウルの文体的特徴をふまえた故でしょうか。田中さんはこの断片的な構成それぞれに音楽的キャラクターを持たせて色彩豊かに演奏なさいました。最後の左手による簡潔な終止を控えめな音量で鳴らすと、田中さんの作り出す世界から一気に現実に引き戻されたかのような心地になりました。

 最後はブラームス《ピアノソナタ 第3番 ヘ短調 作品5》でした。第2楽章に添えられたシュテルナウのたったの3行の詩に、長大な音楽を付曲した作曲家の思い入れを真摯に受け止めた田中さんは、この楽章にもっとも熱を注いでいるように思えました。田中さんの音色は、全体を通して乾いていて芯があり、穏やかに回顧するだけでなく美しい過去として諦めたようにも感じられました。

 田中さんの素晴らしい演奏に加えて、目に見えない抽象的な芸術である音楽を文学と関連付けて解釈することで作曲の背景に新たな切り口を得、粂川先生の研究の一端にも触れることができ、充実した演奏会でした。

(M.S.)

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