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日本ショパン協会 第282回例会
吉兼 加奈子 ピアノリサイタル 開催レポート
《日本ショパン協会パウゼシリーズ Vol.36》
2018年3月10日(土) 開演 18:30 (開場 18:00)
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
日本ショパン協会第282回例会、パウゼシリーズVol.36は、若手ピアニスト、吉兼加奈子さんのリサイタルです。吉兼さんは桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースを経て、オーストリア国立ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学、ウィーン国立音楽大学で学び、現在はソロや室内楽、リート伴奏など、国内外で幅広い演奏活動を展開しています。今宵のプログラムは、ベートーヴェン、ショパン、シューベルト。ウィーンの上質な香りを感じさせる、素晴らしい演奏を聴かせてくださいました。
冒頭はベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第6番 へ長調 作品10-2」で、軽快な幕開けです。詩情と気品に満ちた第1楽章、心地良い緊張感の第2楽章、軽快でどこかユーモラスな第3楽章と、一瞬たりとも隙のない見事さ。ベートーヴェンの初期のソナタを、情趣豊かにまとめあげました。
そして、ショパンのスケルツォを2曲。「第3番 嬰ハ短調 作品39」ではテンポの速さとテクニックの見事さに目を見張り、「第4番 ホ長調 作品54」では音色の種類の豊かさ、コントラスト
の付け方やニュアンスの変化の自由さに心惹かれました。細部まで工夫が凝らされ、輝かしいクライマックスへと至るまで聴衆も息を呑んで聴いていたようです。
休憩を挟んで、後半はシューベルトの「ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D960」。最晩年の傑作です。第1楽章は静寂の音楽。絶え間なく変化する心の揺れが、メロディーや和音で響きの陰影となって現れ、人生の歩みや生命の輝き、終焉などいろいろなことを考えさせられました。第2楽章は人生の辛さを噛み締めるかのような音楽。プログラムノートにも、病や死への恐怖が感じられる、と記されています。第3楽章は一転して、呆れるくらいの明るさ、軽やかさ。ほっとしました。そして第4楽章は快活なフィナーレ。目映い大団円を迎えます。まるで花火を打ち上げたような華やかさでした。シューベルトは、この曲を完成させた2ヵ月後に死を迎えることになるのですが、そんなことは全く想像もできない終わり方ですね。
アンコールは、ヴァーグナー=リストの「静かな炉端で」(オペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』より)をドラマティックに、締めにブルックナーの「Erinnerung(思い出)」で落ち着いた静けさを表現。
見事な内容のリサイタルに、会場からは大きな拍手が送られ、「すごい」「素晴らしかった」といった声がそこかしこから聞こえてきました。吉兼加奈子さんの今後の活躍に注目です。
(H.A.)
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