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有森博&長瀬賢弘ピアノデュオシリーズ 開催レポート
ロシア秘選集 Vol.5「夢」
2017年7月31日(月) 19:00開演 (18:30開場)
出演:有森 博(ピアノ) 長瀬 賢弘(ピアノ)
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
本日は国内外でご活躍のピアニスト有森博さんと長瀬賢弘さんによる、ピアノ・デュオのリサイタルが開催されました。このシリーズは実のところ今回で5回目。ピアニストのお2人は師弟関係であるとともに、モスクワで研鑽を積んだ同志でもあり、卓越した技術と息のぴったり合ったアンサンブルで、毎年たくさんのお客様を盛り上げてきました。本日のテーマは「夢」で、プログラムは全てロシア出身の作曲家による幻想曲と名の付く作品ばかりでした。この幻想曲というジャンルは、ソナタや協奏曲のように決まった型が出来上がることがないものの、15世紀末にはもうその名前が使われていたようで、非常に長い歴史を持っています。幻想曲が創られるようになった15世紀末〜16世紀というのは、声楽から独立した器楽曲が出来たばかりの頃で、幻想曲には「声楽から独立した自由な曲」という役割が求められていたようです。その後も幻想曲には各時代の「型の決まったジャンルから離れた自由な曲」という位置づけが与えられたまま、今日まで大小さまざまな楽曲が生み出されてきました。今日のテーマ「夢」も、そうした幻想曲への各作曲家の想いを汲んだものだと捉えると、興味深い限りです。有森さんと長瀬さんの演奏は今年も非常に素晴らしく、冒頭のスクリャービンの遺作の幻想曲では、ピアノだけによる演奏とは思えない多彩な音色と迫力で、客席をお2人の音楽の世界に惹き込んでいました。次の演目は、帝政末期から第一次世界大戦を経てのソヴィエト建国と、19世紀終盤〜20世紀序盤の激動するロシアを見つめていた作曲家、グラズノフの幻想曲です。幻想曲と銘打ちながらも、第1楽章で提示された主題が全曲の基盤となっている非常に手の込んだ作品ですが、お2人は各楽章の特徴をよく捉えて、第1楽章の対位法的な美しさ・第2楽章の軽やかさと煌びやかさ・第3楽章の懐古的な美しさと激しい起伏を、見事に表現されていました。まだ前半のプログラムが終わったところにも関わらず、会場は既に鳴り止まない拍手に包まれていました。
後半はまず、存命中のピアニストであるマエフスキーによる《ガーシュインの歌による幻想曲》。休憩明けでお色直し(!)をして登場したお2人は、ガーシュインの切れの良いリズムや独特のハーモニーを体現したこの作品で、再び客席を音楽の世界に誘っていらっしゃいました。そして最後のプログラムとなったのは、ぐっと時代を遡って19世紀のヴィルトゥオーゾとして名をはせた、ロシアの作曲家兼ピアニストのルビンシュタインの幻想曲。古典的な重厚さを持ちながらもリストを彷彿とさせるような技巧が目立ち、19世紀に西欧の古典を取り込みながらもロマン主義時代を迎えたロシアの作曲家らしい作品です。技術的にも山場なところが次々と現れる作品でもありますが、お2人は持前の技術と表現力でこの35分を超える大曲を素晴らしい演奏で締めくくり、会場からは大きな拍手と簡単の声が揚がりました。アンコールは恒例(!?)のハチャトゥリアン<剣の舞>に加え、モーツァルトのピアノ・ソナタの2台ピアノ版。ピアノ習得者なら一度は弾いたことがあるであろう親しみやすい旋律が、2台ピアノで華やかに大変身している様には、思わずクスっと笑う声も出ていました。最後の最後までお2人の素敵な音楽の世界を味わうことの出来た、大変充実した時間でした。
(A. T.)
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