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田中あかね ピアノリサイタル 開催レポート
〜ボンの町から Vol. 10 「悲愴」をめぐって〜
2017年5月19日(金) 19:00開演 18:30開場
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
2009年から始まり毎回好評を博している、ピアニスト田中あかねさんによる『ボンの町から』シリーズも本日で第10回を迎えました。今回のプログラムは、《ピアノソナタ第8番ハ短調「悲愴」》Op.13(以下《悲愴》)をテーマに、ベートーヴェンが《悲愴》を作曲するにあたり模範としたモーツァルトのハ短調のソナタと、《悲愴》から影響を受けているシューベルトのハ短調のソナタで構成されておりました。最初はモーツァルトです。《幻想曲》K.475と、対になっている《ピアノソナタ第14番ハ短調》K.457を続けて演奏されました。様々な曲想が次から次へと湧き出るように自由に表現された《幻想曲》、しっかりとした形式感のある《ピアノソナタ第14番》。2曲共に人間味の溢れるドラマティックな演奏を展開され、まるで悲劇的な内容のオペラを鑑賞しているようでした。
続いて、今回のメインであるベートーヴェンの《悲愴》です。迫り来るような緊張感が感じられた第1楽章、爽やかな第2楽章、突き進むような第3楽章。作曲家が28歳頃の作品とのことで、若々しさと勢いのある演奏を聴かせて下さいました。また、このソナタの第2楽章冒頭の主題と、先に述べたモーツァルトのソナタでの第2楽章中間部に登場する主題が類似していることなども解説してくださり大変興味深かったです。
休憩を挟み後半は、シューベルトの《ピアノソナタ ハ短調》D.958(遺作)です。《悲愴》からの影響が強く感じられながらも、シューベルトならではの世界観が凝縮されておりました。心に沁み入るような非常に味わい深い演奏で、和声のほんのわずかな変化でも息をのむほど美しく繊細に表現されていたことは、とりわけ印象的でした。
客席からの盛大な拍手に応えられ、「ショパンの有名なハ短調の曲があるのでお聴きください。」と、アンコールにショパンの《12の練習曲》Op.10より第12番〈革命〉を披露してくださいました。激しい悲しみが伝わるような迫力のある演奏を展開され、客席からさらに熱い拍手が贈られました。
演奏後の田中さんによるトークでは、ハ短調の曲は非常に悲劇的なキャラクターだが、多くの作曲家にインスピレーションを与えやすく、作曲家ごとに個性は異なるけれども、非常に作りやすかったのでは・・・と述べられておりました。名曲の《悲愴》を軸に、ハ短調の魅力を存分に味わえた素敵なリサイタルとなりました。
(K.S.)
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