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酒井起世子 ピアノリサイタル 開催レポート 
〜心から愛をこめて〜
2017年4月21日(金)19:00開演(18:30開場)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 ベテラン・ピアニストの酒井起世子さんによるリサイタル。長年にわたり、国内外における様々な演奏活動、国際コンクールの審査、武蔵野音楽大学などでの後進の指導、クロイツァー記念会など、幅広い活動を続けてこられた酒井さんですが、今回のリサイタルは「心から愛をこめて」と題して、丹精を込めた演奏を聴かせてくださいました。

 冒頭はモーツァルトの「幻想曲 ニ短調 Kv397」から。底知れぬ哀しみ、苦しみを独白するような前半部と、明るい光に満ちた軽やかな後半部。何事もなかったかのように晴れやかなハッピーエンド。影から光への場面転換が鮮やかでした。

 次の曲も「幻想曲」ですが、今度はスクリャービンの「ロ短調Op.28」。幻想的な響きの中、儚くロマンティックな旋律が奏でられ、次第に音の層は厚みを増し、大きなうねりを帯び、壮大な終焉へと向かっていきました。

 プログラム前半の締めは、ショパンを2曲です。「ノクターン第4番 ヘ長調 Op.15-1」の、柔らかな陽だまりのような幸福感と、激情の嵐との対比。「バラード第4番 ヘ短調 Op.52」のドラマティックな世界観。作品番号は離れているのですが、ヘ長調とヘ短調、共通した趣を感じました。

 後半はシューベルトの「ソナタ第13番 イ長調 D664」。可憐な歌を軸に巧みに展開した第1楽章、シンプルに心を打つ上質な第2楽章、愛らしさ・軽やかさが群を抜く第3楽章。さわやかさがとても心地よかったです。

 そしていよいよ最後の曲。リストの「巡礼の年第一年『スイス』」より2曲です。第4曲「泉のほとり」では、清らかに澄んだ豊かな水が、絶え間なく湧き出る様を連想させました。第6曲「オーベルマンの谷」は、最初から終わりまで何度も繰り返される下降音型のモチーフのみで、ここまで音楽を盛り上げる凄まじさ。愛の歌を高らかに歌い上げ、感動のクライマックスとなりました。

 アンコールは、シューベルトとシューマンの歌曲のリスト編を2曲。歌曲『美しき水車小屋の娘』より第2曲「どこに?」は、旅路でふと思う優しい思い出のよう。歌曲『ミルテの花』より第1曲「献呈」は、最上級の感動がダイレクトに伝わってきました。

 人生の機微に触れる、味わい深い演奏。素晴らしい一夜となりました。

(H.A.)

 

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