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有森博&秋元孝介ピアノデュオシリーズ 開催レポート
「新春のくるみ割り人形」vol.1
2017年1月11日(水) 19:00開演
出演:有森 博/ピアノ  秋元孝介/ピアノ
会場:
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」

 

 

 チャイコフスキーの《くるみ割り人形》は、ロシアの年末年始にボリショイ劇場で連日上演され、美しく親しみやすい舞踊音楽でファンを喜ばせている演目です。本日開催された有森さん、秋元さんのデュオコンサートは、まさしくその曲の題を看板に掲げ、本場に倣って新年に日本でも《くるみ割り人形》を開催する、というコンセプトを持つシリーズとなっているとのことです。零下二桁にも達するモスクワ、ペテルブルクには到底及びませんが、そろそろ寒の入りを迎える日本にあって、今回の曲目は時季に非常によく合っていました。

 まず前半では、お二人の連弾での演奏が披露されました。まず演奏されたのは、ボロディンの幼少期の作品《エレーヌポルカ》、そして青年期の《タランテラ》です。前者は素朴ながら、ロシア音楽特有の涼やかな息吹を感じるような楽曲です。後者は、巧みなパッセージの響き合いや四手の間での声部の受け継ぎ方に、作曲技法の訓練の成果や創意工夫が見られます。この二曲では、とりわけ、師弟コンビの息の合った演奏、音のバランスの巧みさ、そして舞曲のリズムの生き生きとした「ノリ」が披露されていました。「名刺代わり」の小曲と片付けるにはもったいない、美しい佳曲でした。

 続いて、チャイコフスキー(ランガー編曲)の《交響曲第1番「冬の日の幻想」》が演奏されました。表題にあるように、ロシアの冬の清冽な、ときには陰鬱な冬を親しみやすい楽想で描き出したこの楽曲は、真冬を迎える今日この頃の天候にぴったりです。第1楽章では、詩的な楽想が劇的に展開されますが、4つの手から手へと音がダイナミックに受け継がれていく、楽曲の中間部分でのクライマックスには、圧倒されました。第2楽章は切なげな民謡調の旋律が二人の手によって歌い上げられ、真冬のロシアの詩的な情景が目の前に浮かんでくるかのようでした。ほの暗気なスケルツォの第3楽章では、雲間から太陽が差し込むような、優しげなワルツの中間部の表情が深い印象を残しました。第4楽章は、ひたすらにエネルギーに満ち満ちており、本当に一つのピアノだけで演奏されているのかが信じがたいほどの迫力を持っていました。

 後半は、2台ピアノで、今回の演奏会のテーマでもある《くるみ割り人形》のバレエ音楽が抜粋で演奏されました。ここでの注目は、普段演奏されているエコノム編曲の8曲と、秋元さんが編曲された2曲(〈情景〉と〈スペインの踊り〉)が組み合わされていることでしょう。これらの10曲は、バレエの舞台で繰り広げられる楽しげで幻想的なムードを、そのままピアノに移し替えたようでした。有森さんと秋元さんは、ときに華やかに、ときに静やかに音楽物語を紡ぎ上げていく、雄弁な語り手のようでした。秋元さんの新しい編曲も、エコノムのものと何ら遜色のない、色彩豊かな素晴らしいものでした。

 最後に、なんと5曲ものアンコールが演奏され、冬の熱い一夜は幕を閉じました(アレンスキー《組曲第4番》より〈夢〉、モーツァルト=グリーグ《ピアノ・ソナタ》K. 545より第1楽章、チャイコフスキー=Schaefer《管弦楽組曲第1番》より〈行進曲〉、アミロフ&ナジロヴァ《アルバニアの主題による組曲》より第2曲、ラフマニノフ《イタリア・ポルカ》)。

 全体を通して、デュオのお二人のロシア音楽への愛が伝わり、遠く北方の音楽の美しさと魅力を十二分に味わうことのできる一夜でした。お二人と磨き上げられたテクニックと、作曲家や楽曲に対する確かな知識、そしてなによりお互いへの信頼がない限り、なし得ない演奏会だったでしょう。また、連弾や二台ピアノという編成でありながらも、喧しさや音の分離・ズレが感じられなかったのは、お二人の演奏技術や表現力そのものもさながら、ピアノと調律師さんの腕の賜物でもあったでしょう。

 「新春のくるみ割り人形」シリーズはまたということになりますが、今からもう次回の演奏会が、そして本シリーズ以外のこれからのお二人それぞれのご活動も、楽しみでなりません。

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