数ある国際ピアノコンクールの中でもその権威を認められている、浜松国際ピアノコンクールに参加された日本人ピアニストによるこのハーフリサイタルシリーズも、いよいよ今日が最終日となりました。数々のコンクールで実績を上げ、現在東京藝術大学大学院で研鑽を積んでいらっしゃる今田篤さん。年末にもかかわらずたくさんの方が来場されました。
今田さんがプログラムに選ばれたのは、音楽の都ウィーンの賜物とも言えるモーツァルトのピアノ・ソナタイ短調とシューベルト《楽興の時》。いずれも、ピアノという楽器を最大限美しく響かせ各々の音楽要素を繊細に表現することが要求されるプログラムですが、今田さんは1つ1つの音に磨きをかけた大変素晴らしい演奏をされました。モーツァルトのピアノ・ソナタの1楽章と3楽章は、彼の作品の中では珍しく切迫した雰囲気が続きますが、今田さんの演奏は情熱的ながらも決して誇張しすぎることのない気品あふれるものでした。《楽興の時》は全6曲のうち第3番が大変有名ですが、今田さんはそれぞれの楽曲の特色をよく捉えた音楽創りで、いずれの曲でも客席を惹き込んでいました。特に、ため息のような音型と静寂な響きが印象的な第6曲は、大変神秘的で美しい演奏でした。アンコールはやはり厳かな雰囲気の漂う、ラフマニノフ《楽興の時》の第3番。最後まで今田さんの創り上げる神聖な音楽の世界に浸ることの出来たステージでした。
(A.T.)