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《 ニュー・アーティスト シリーズ2016 in 表参道 》
第9回浜松国際ピアノコンクール出場ピアニストによる
コンサート・シリーズ 開催レポート
2016年12月26日(月)19:30開演 (19:00開場)
出演:吉武 優
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 6年のベルリン留学から今夏に完全帰国された吉武優さんのコンサートは、オール・ベートーヴェン・プログラムによるものでした。言うまでもなくドイツ作曲家の代表的存在の一人のベートーヴェン。留学先で学んだ成果を披露する絶好・渾身のプログラム構成と言えるでしょう。

 プログラム全体の序曲とも言える《アンダンテ・ファヴォリ》は、優しげな楽曲です。顔をしかめた作曲家の肖像のイメージとはまた違った、しかし魅力に満ちた楽曲を、吉武さんは繊細な音色をもって巧みに弾き上げていました。

 続いて、2曲の大曲が演奏されました。まずは《〈プロメテウスの創造物〉の主題による15の変奏曲とフーガ》です。この曲は、ソナタと並んでベートーヴェンが得意としたピアノ独奏曲のジャンルである変奏曲の中でも、中期の傑作として知られています。同一の主題による変奏が綿々と続く変奏曲は、ソナタとはまた別の構成力が必要ですが、吉武さんは長大な全曲を統一あるものとしてしっかりとまとめ上げていました。それに加え、ドラマチックな楽想から激烈な情動の発露を引き出す、表現と技巧の確かさも、深く印象に残りました。

 プログラムの最後に演奏されたのは、《ピアノ・ソナタ第31番》でした。第1楽章はベートーヴェン後期の澄み切った境地が瑞々しく表現され、第2楽章は重厚で英雄的な曲想にあって、なお透明な音色が印象的でした。「嘆きの歌」と巧みで爽やかなフーガを行き来する最終第3楽章は、どんよりと立ち込めた雲が徐々に晴れていくかのような心持ちでした。

 アンコールもベートーヴェンの最晩年の作品かつ最後のピアノ曲、《6つのバガテル》Op. 126から第5曲が取り上げられましたが、今日演奏されたどの曲よりもシンプルかつ端正に音が立ち上がってくるような演奏を聴かせてくださいました。ト長調の静かな和音で曲が閉じられると、会場は大きな拍手に包まれました。

 冒頭からアンコールまでを通して、吉武さんの演奏でとりわけ感銘を受けたのは、音色の美しさです。時に嵐のように激烈で、時に重々しい低音が鳴り響くベートーヴェン楽曲の和音は、場合によっては耳障りに聴こえてしまうものですが、見事に隅々まで整えられた個々の音色のバランスは、古典作曲家の新たな魅力を知らせてくれるかのようでした。ベルリンで学ばれた音楽の本質的な美しさを、日本の音楽界に今後とも広めていくであろう吉武さん、更なるご活躍に期待しましょう。

(A.Y)

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