本日は、日本人音楽家の登竜門と称される日本音楽コンクールにて、3位に入られました五十嵐薫子さんによるピアノリサイタルでした。五十嵐さんは現在桐朋学園にて研鑽を積んでいらっしゃいますが、卓越した技術で大変安定感のある演奏をすることが出来、既にピアニストとしての風格を充分備えていらっしゃいます。本日のプログラムもブラームス、シューベルト、ベートーヴェンと、「弾きこなすのは難しい」とされるドイツ/オーストリア圏の巨匠たちの名前が並んでいました。
最初に演奏されたのは、ブラームスの<パガニーニの主題による変奏曲>作品35の2です。パガニーニは華麗な名人技で19世紀のヨーロッパを沸かせたヴァイオリニストであり、彼自身も演奏したであろうこの主題には、リストやラフマニノフなど多くの名作曲家達が変奏をつけてきました。その中でこのブラームスによる変奏曲が演奏されることは大変珍しく、またピアニストにとっては技術的にも大変難しいものとなっています。しかしながら五十嵐さんは、細かい音型のうねりや大きな音の跳躍を物ともせず見事に楽曲をまとめていらっしゃいました。次の演奏はシューベルトの即興曲作品90の全4曲。先ほどのブラームスとは対照的で、ピアノ曲としてはシンプルな音使いであるだけに、1つずつの音が美しく磨かれていることが要求されます。こちらも五十嵐さんは大変丁寧に各々の曲を仕上げていらっしゃり、大変美しく心地よい演奏でした。
後半はベートーヴェンの後期の大作である、ピアノソナタ第29番。ベートーヴェンの生きていた当時ではこの曲の演奏にふさわしい楽器すらなかったという、数十分のうちにたくさんの音楽要素やベートーヴェンの音楽観が詰め込まれた作品です。まとめあげるのが大変困難な作品ですが、五十嵐さんは強弱や奏法のコントラストをつけながら、各楽章のよさを充分に引き出していらっしゃいました。さてこうして本編のプログラムは全て終了したのですが、その後五十嵐さんがアンコールに選んだのは、なんとショパンの最も有名な大作の一つであるスケルツォ第2番!!若いピアニストのエネルギーと卓越した技術・集中力に、最後まで盛大な拍手が贈られたコンサートでした。
(A.T.)