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第9回浜松国際ピアノコンクール2015 優勝者
アレクサンデル・ガジェヴ ピアノリサイタル 開催レポート
アルゲリッチ氏ら審査員をも唸らせた円熟の音楽!!
2016年7月13日(水) 19:00開演 18:30開場
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
難関として知られ、今では若手ピアニストの登竜門の一つとも言われる浜松国際ピアノコンクールにおいて、昨年優勝を飾られたピアニスト、アレクサンデル・ガジェヴさんによるリサイタルが行われました。10代前半の頃からヨーロッパの各地で華々しい活躍をされているガジェヴさんのリサイタルでは、チケットが完売してしまうほどで、多くの方が楽しみにいらっしゃいました。前半はベートーヴェン《ピアノ・ソナタ第31番 Op.110》、ショパン《ピアノ・ソナタ第2番 Op.35「葬送」》、後半はバッハ作曲ブゾーニ編曲《シャコンヌ BWV1004》、リスト《ピアノ・ソナタロ短調 S.178/R.21》と、普通のリサイタルではメインとして演奏されるような曲が4曲も並び、重量感のある充実した、意欲溢れるプログラムでした。
ベートーヴェンは音符やピアノという楽器を超えた、深い精神性を感じさせる演奏でした。1楽章冒頭のどこか遠くの世界から聴こえてくるような連なる音、3楽章の静かに雪が降るような広々とした空間など、音を通して崇高で深い時間を味わいました。「嘆きの歌」のフーガでは繊細な出だしから次第にダイナミックになっていき、最後は迫り来るような勢いで、その迫力に圧倒されました。
続くショパンは現実の世界を、それも焦りから逃れることのできない緊張感で満ちた空気感でした。安堵を望む心と厳しい現実の激しい応酬は息をつく暇がないほどで、徹底した厳しい表現にストイックさを感じました。葬送行進曲はあえて感情的にならず淡々と弾くことで、重く淀んだ雰囲気を醸し出し、美しい希望の旋律は素朴ゆえの透明感のある音色でした。
バッハのシャコンヌはヴァイオリンの独奏曲として知られていますが、ピアニスティックな技巧を凝らしたブゾーニの編曲でより充実した内容となった曲です。シンプルでありながら陰のある音でテーマが静かに演奏され、様々な技巧を凝らした変奏が次から次へと鮮やかに紡ぎ出されました。まるでヨーロッパの大聖堂のような華やかでありながら緻密さも兼ね備え、気品溢れる演奏でした。
プログラムの最後を飾るリストはガジェヴさんの持ち味が見事に発揮されました。途切れることのない集中の中で、最高の技術が凝集され、非常にダイナミックな演奏でした。長大で難易度も非常に高いこの楽曲に振り回されることなく、しっかりと手綱を引き締め、曲を通してのガジェヴさんの崇高で彩り豊かな世界を躍動感とともに楽しみました。
アンコールではドビュッシー《12の練習曲》より「組み合わされたアルペジオのために」では一変して豊かで柔らかい音色を、祖国ロシアの作曲家、プロコフィエフ《ピアノ・ソナタ第7番「戦争ソナタ」》より第3楽章では自信みなぎる圧倒的な演奏技術を披露し、非常に高揚した雰囲気の中で華やかにリサイタルを終えられました。
今回はガジェヴさんの演奏の素晴らしさが十分に詰まったリサイタルでした。今後のガジェヴさんのさらなる充実した演奏活動を願うとともに、一人でも多くの方に演奏が届くことを願っております。
(H.M.)
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