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土井千咲綺 ピアノリサイタル 開催レポート
2016年1月8日(金) 19時開演
会場:
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」

  

 本日はスイスを拠点に研鑽を積んでいらっしゃいました、新進気鋭のピアニスト土井千咲綺さんのピアノリサイタルが開催されました。既に国際コンクールでの実績も多数積んでこられた土井さんの演奏を聴こうと、平日の開催にもかかわらず、たくさんのお客様がパウゼに集まりました。プログラムはバッハから武光徹まで多岐にわたった上、ソナタの全楽章演奏を3つも含んだボリューミーなもので、土井さんのレパートリーの多さをうかがわせるものでした。

 土井さんの演奏は、安定した技術と丹念に磨かれた柔和な音色にあります。最初に演奏されましたバッハのパルティータ第2番では、とりわけその音色の美しさを堪能することが出来ました。この作品はバッハの諸作品の中でも比較的シンプルなつくりとなっており、その分1つ1つの音のクオリティの高さが要求されますが、土井さんは粒のそろった音色を立体的に並べ、この作品の魅力を存分に引き出していらっしゃいました。さらにこのパルティータは様々な種類の舞曲を合わせた組曲ですが、土井さんは1曲ずつの曲調やリズム感をよく捉えた上で、大きな1つの作品として全体を楽しめるよう、曲と曲の間の取り方なども工夫していらっしゃいました。

 次に演奏されましたのは、一転してプロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番。このソナタは通称「戦争ソナタ」と呼ばれ、続く第7番・第8番とともに、プロコフィエフのピアノ・ソナタの中でも非常に充実した内容となっていると同時に、激しい和音のぶつかり合いや大きな跳躍や走句が技術的に大変難しい作品です。しかしながら、土井さんの演奏はそうした技術的な難所においても、動じることのないものでした。曲調が華々しい第1楽章・第4楽章はもちろんのこと、比較的地味に思われがちな第2楽章・第3楽章でも様々な表現の工夫が見られ、演奏後にはブラボーの声もあがりました。

 後半の冒頭はモーツァルトのピアノ・ソナタイ短調で、また土井さんの音色の美しさを存分に味わうことが出来るプログラムです。このイ短調のソナタは、モーツァルトの短調の楽曲に特有の、情熱的な部分と繊細で儚い部分が美しい対比をなしていますが、土井さんの演奏はその対比を見事に表しており、特に細かいパッセージや装飾音の美しさは秀逸でした。続く武満徹の《雨の樹素描》では、その繊細な音色を、一転して神秘的な音の世界の創造に用いていらっしゃいました。

 最後はモーツァルトに並んで古典主義の代表的な作曲家である、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第21番《ワルトシュタイン》。非常に規模の大きい作品の全楽章演奏でしたが、土井さんは作品全体にあたかも物語をつけているかのごとく、各楽句を表情豊かに仕上げた上で、楽句同士を堅実に積み上げていらっしゃいました。

 大きな拍手の中演奏されたアンコールは、スクリャービンの《左手のためのプレリュード》でした。最後の最後まで土井さんの美しい音色を楽しむことのできた、素晴らしいコンサートでした。

(A. T. )

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