新緑の美しい5月の夕べ、「日本が誇る真のデュオ」と評される中井恒仁さんと武田美和子さんのリサイタルが開催されました。「ピアノデュオ世界旅行」シリーズの第8回目となる今回のテーマは「アメリカ」。ガーシュインやバーンスタインなどアメリカ生まれの作曲家の作品のほか、亡命後アメリカでも活躍したラフマニノフの作品が取り上げられました。2台ピアノの名曲はもちろん、あまり広く知られていない作品もプログラムに組み込まれており、ピアノデュオの奥深さを改めて感じることのできた2時間でした。各曲の間におふたりが自ら演奏曲を解説しながら進められたのですが、会場の笑いを上手に誘いながら、終始なごやかで楽しい雰囲気を作り出しておられました。いわゆるクラシック音楽のコンサートにありがちな「堅苦しさ」というものがなく、満席の会場も良い意味で肩の力を抜いて音楽の流れに身を任せることができたのではないでしょうか。
なかでも印象的だったのは、前半の最後に演奏されたラフマニノフの《組曲第2番》op.
17より〈ワルツ〉と〈タランテラ〉です。「息の合った演奏」という以上に、おふたりの音が溶け合い、一つの音響体となって聞こえてくるようでした。タイプの全く異なる演奏者による1対1のぶつかり合いが面白いピアノデュオもありますが、おふたりの演奏はときおり2台で演奏していることを忘れさせるほどに、互いに調和し、寄り添い合い、同じ方向を向いて前進していくような演奏でした。ダイナミックで力強い表現と、繊細で柔らかな表現の両方を合わせ持ち、2台ピアノならではの迫力で音楽の波が次々と紡がれていくさまは圧巻で、瞬く間に聴く者の心をつかんでいました。今後も、おふたりがピアノデュオの魅力を発信し続けてくださることを心から期待しています。
(Y. T.)